28日のホープフルSデーをもって、今年の中央競馬も終わった。当コラムもこれが2024年のラスト。1年間、競馬を見続けてきて思ったことを記したい。なお、締め切りの都合上、この原稿はホープフルS前に書いている。その点はご容赦願いたい。
有馬記念を制したのは3歳牝馬レガレイラだった。3歳牝馬による有馬記念制覇は1960年スターロツチ以来64年ぶりだという。「64」という数字に聞き覚えがあると思ったら、ウオッカによる牝馬ダービー制覇(07年)が64年ぶりだった。
「同じ64年ぶり。偶然の符号ですね」で片付けてもよいのだが、ここであることに気付いた。ともに「牝馬が、高い壁である牡馬に挑戦した。そのことによる成果が64年ぶりの偉業を引き出した」ということだ。
オークスには目もくれず、果敢にダービーで牡馬に挑戦し、歴史の扉を開いたウオッカ。古馬になってからも競馬史に残る活躍を見せた。
レガレイラも牡馬に挑んだ。昨年冬は阪神ジュベナイルフィリーズでなく、ホープフルSにチャレンジ。並み居る牡馬をなぎ倒して見事、GⅠを手にした。迎えたクラシックシーズンは皐月賞(6着)、ダービー(5着)と打倒・牡馬に執念を見せた。
勝つことはできなかったが、この挑戦がレガレイラの能力を底上げしたことは想像に難くない。そして、高い壁に挑戦し続けたことが、有馬記念制覇という結果につながったのではないかと思うのだ。
ここでもうひとつ思い出した。12月18日の当コラムで記した、フランス遠征での苦い経験をバネに、有馬記念、ドバイワールドC制覇へと大きく羽ばたいたヴィクトワールピサのことである。チャレンジなくして成功なし。市川義美オーナーの言葉は、そのままレガレイラにも当てはまる。牡馬に挑戦し続け、苦汁をなめたからこそ、夢のグランプリ制覇があったのだ。
まあ、夢のないことを言ってしまえば、レガレイラ自身がその道を選択したわけではなく、関係者があえて苦難の道をチョイスしたということではあるのだが、それでも拍手喝采ものだ。有馬記念の枠順抽選会で、吉田俊介氏がレガレイラ陣営の席に座り、「昨年、ホープフルSを勝った時は、この馬はどれだけ強くなるのかと楽しみにしていたのに…」という主旨の話をしていた。
かわいい子に旅をさせ、千尋の谷に突き落とした。その結果が1年後に最高の形で出た。関係者にとって、選択した道は誤っていなかったと納得できた勝利だったはずだ。
一方で、GⅠ 3連勝が懸かっていたドウデュースは右前肢ハ行で出走取消。ファンにとってはショッキングな出来事だったようだが、こういうことが起こるのも、また競馬である。これによって戦歴が傷つくことは全くない。
オッと思ったのが、ファンの声である。陣営に文句を浴びせるような反応は自分の知る限りなかったように思う。「レースで故障した方がよほどショック。仕方ない対応だ」「元気なまま種牡馬になれるのだから、これでいい」といった声が大部分を占めた。何だか高所から評論しているような言い方で恐縮だが、ファンも成熟している、と感じた。
日本競馬が(ファンも含めて)順調にレベルアップし、盛り上がりを見せた2024年の日本競馬。新年はどんな競馬が待っているか。挑戦なくして成功なし。そういえば阪神JFには史上初めて外国調教馬が参戦(メイデイレディ13着)した。ライバル各国も手をこまねいてはいない。挑戦している。さまざまな挑戦を見届ける25年になればいいな、と思う。