(和歌山県田辺市) 毎年7月24日・25日
460年以上の歴史をもつ紀州三大祭りのひとつで紀南地方最大の祭礼
「田辺祭」は毎年7月24日・25日に行われる鬪雞神社の例大祭です。旧城下の各商人町から8基の「おかさ」と言われる、京都の祇園祭のような笠鉾が町中を練り歩き、街をあげた賑わいを見せます。紀南地方最大の祭礼ともいわれ、紀州三大祭りにも数えられています。
2日間にわたって行われる田辺祭は各日程で見どころが満載です。1日目、7月24日の宵宮(よいみや)は神輿渡御(みこしとぎょ)から始まります。朝、神輿は鬪雞神社を出発し、その行列は市内を通って江川漁港の御旅所へ向かいます。神輿の渡御に続いて、田辺祭の名物・「お笠」と呼ばれる各町の山車が江川のお旅所に向かい、お旅所では、神輿、馬、お笠の順に潮垢離(しおごり『海水でみそぎをすること』)などの神事を行います。
江川漁港での潮垢離などの神事終了後、神輿を先頭にお笠などの行列が鬪雞神社に向けて出発します。神輿は市内各所を回り、一足先に鬪雞神社へ、お笠は夕刻に鬪雞神社に到着し、鳥居前参道に並んで夜のお勤めを待ちます。午後7時頃から鳥居前でお勤めが開始され、終了後、お笠に乗った子供の笛・太鼓の祭り囃子にのって各町にお笠を引き帰ります。いくつかのお笠は会津川河口近くの会津橋に曳き揃えられます。川面に美しい灯を映し出す、田辺祭の名物のひとつです。
2日目、7月25日の本祭は朝4時30分から鬪雞神社にて暁の祭典から始まります。祭典では田辺祭の見どころのひとつである「浦安の舞」の奉納が行わます。
日中お笠は各町を曳き廻り、昼前に会津川河口付近の旧会津橋に揃います。橋の西詰(江川側)に住矢と江川のお笠2基、その他のお笠は東詰(市内側)に揃います。昼頃、東詰から西詰の住矢に迎えの使者を出す儀礼があります。これを「七度半の使い」と呼び、東詰から2名ずつの使者が7度迎えに行き、最後に住矢が出発して橋の中程で8度目の使者と出会い、挨拶を交わして橋の東側に渡る儀式です。
25日の夜、祭りはクライマックスの宮入りを迎えます。宮入りは、まず住矢から始まります。本殿前でお勤めを行い、鳥居横の土手まで走り、住矢を解体する「笠やぶち」が行われると、いよいよお笠の宮入りです。鳥居前参道に揃ったお笠が鳥居をくぐり、つぎつぎと境内に入ってきて一気に絢爛な雰囲気に。お笠は一基ずつ本殿前でお勤めを行います。
すべてのお笠のお勤めが終わった後、流鏑馬行事が始まります。田辺祭の最後を飾る行事です。本殿前に参列した神職・社総代・宿等が鳥居前に移動し、流鏑馬が始まります。乗子3人が3頭の馬に乗り、各1騎ずつ3回、合計9本の射的を行います。
流鏑馬が終わって、祭は幕を閉じます。一番ホラが吹かれ、お笠は曳き別れの準備をします。二番ホラを合図に、お笠は境内からつぎつぎと出てきます。先囃子の子供はお笠の上屋に乗り、賑やかな囃子や掛け声と共に各町に帰って行きます。各町の参詣人もお笠を取り巻き、祭を惜しむように曳き帰っていきます。
鬪雞神社を出発したお笠は、お囃子と共に各町に帰っていきます。会津橋を渡って帰る江川のお笠を、片町のお笠が見送りにきて、橋の上でお笠を向かい合わせて「別れの掛け合い」を行います。幕が取り払われたお笠の下段で、お互いのお囃子が夜遅くまで鳴り響きます。
境内の一角にはその様子を再現した湛増と弁慶像があり、社務所には源義経が奉納したといわれている笛(銘白竜)、弁慶産湯の釜、湛増が使ったとされている鉄烏帽子や鉄扇等の宝物が展示されています。
鬪雞神社
和歌山県田辺市東陽1-1
アクセス
車◉南紀田辺ICから約10分。電車◉JR紀伊田辺駅から徒歩約5分。
鬪雞神社の起源
社伝によると允恭天皇8年(419年)に創建。白河天皇の時代に熊野三所権現を勧請し、熊野参詣の折には鬪雞神社に参拝して心願成就を祈願したと言います。また、鬪雞神社に祈願して三山参詣に替えたという伝承もあり、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)の別宮的存在として熊野信仰の一翼を担っていました。社殿は熊野本宮大社が川の増水で流失する以前と同じ配置をしており、熊野信仰の歴史をいまに伝える貴重な場所です。鬪雞神社の名は平家物語壇ノ浦合戦の鶏合せの故事に由来します。
源氏と平氏の双方より熊野水軍の援軍を要請された武蔵坊弁慶の父であると伝えられる熊野別当・湛増(たんぞう)が、どちらに味方をするかの神意を確認するため、神社本殿の前で赤を平氏、白を源氏に見立てた紅白7羽の鶏を闘わせました。すると、ことごとく白(源氏)の鶏が勝利したため、源氏に加勢することを決め、熊野水軍200隻を出陣させました。熊野水軍の加勢が合戦の勝敗に結びついたともいわれます。
取材後記…
毎年7月24日・25日に行われる450年余の歴史をもつ祭りは、街をあげての壮大なイベントとなります。夜の川面に映り込むお笠の灯りは幻想的で美しく、どことなく哀愁を漂わせ、また来年ここへ…。という思いを抱かせます。文/邦馬
取材協力・写真提供
田辺観光協会(田辺市役所観光振興課内)
お問合せ 0739-26-9929