馬にはなぜ人参?という話はよく取り上げられていて、もうそれほど驚くような答えはない。
少し前にテレビを見ていると「チコちゃんに叱られる!」というNHKの人気番組をやっていて、その中で「なぜ馬に人参をあげるのか?」というクイズがあった。そしてその答えと内容は、僕が知ってるものよりかなり深いものだった。
まず驚いたのは、馬に人参をあげるのは日本独特のもので歴史も古く、100年以上前から行われてきたということだ。
戦国時代と違って、鎖国していた江戸時代の馬の役割というのはおとなしいものだった。だが、幕末に幕府がフランスから西洋式軍隊を導入したり、明治政府がドイツの警察騎馬隊を参考にしたりして軍隊や警察の騎馬隊というものが日本でも作られるようになった。
統制の取れた馬にするための騎乗訓練に欠かすことができないひとつに、うまくできた時の「ご褒美」がある。馬は甘いものが好きなので、欧州ではご褒美として角砂糖などを馬に与えていたらしいが、当時の日本では角砂糖は高価な品物だったので、その代用品を考えた結果「人参」が登場する。そこそこ甘くて、そのまま1本でもスティック状に切ったものでもポケットに入れて、すぐ馬にあげることが出来るからだ。
テレビのクイズの答えも「ポケットに入れやすいから」だった。
では馬が見たこともない人参をどうやって好きにさせるのか。これは人によって違うかもしれないが、僕のやり方はずっとこうだ。
まずは飼葉に粗めのおろし金ですった人参を入れる。飼葉をよく食べる馬なら気にせず人参ごと食べてくれるので多めに与える。
第2ステップは、すった人参の他にサイコロ大に切ったものも入れる。食感とか歯ごたえを感じてもらうためだ。
それも完食するようなら、サイズを段々と大きくしていく。
それもクリアしたらスティック状に切った人参を、手から無理やり口に入れてみる。
2歳馬は個体差はあるがほとんどが乳歯で、歯並びが悪かったり永久歯との生え替わりの時期だったりで大きな固形のものが食べにくい。こうして小さく食べやすいものから慣らして徐々に大きくしていくのだ。
だいたい3歳の春くらいまでには歯は全て生え替わり、人参が好きになった馬は丸ごと1本そのまま与えてもバリバリ食べるようになる。
そうなると馬は人が人参を切り出すと鳴き出したり、「くれー!」みたいな芸っぽいアピールとかをする馬もいる。
本来は褒める時や馬房内で逃げて掴ませない馬を釣る時、馬の歯のチェックの際などにあげるものだが、こういう可愛い仕草や芸をすると、ついつい余分にあげてしまう。
昔、エアグルーヴが僕の顔を高速で舐め回すシーンが、よくメディアで紹介された。
そう、これは僕のことが好きでたまらないからではなく、ポケットに人参が入っているのを知っていて、おねだりしているだけだった。グルーヴはいつでも皆さんに顔舐めを披露できた……まさしくこれは人参をエサにした「芸」だったのだ。