JRAの各厩舎には調教師をトップとして3つの職種がある。担当馬の世話と運動などをする「厩務員」。担当馬の調教と厩務員の仕事もする「持ち乗り調教助手」。調教のみ行う「専業調教助手」。
今回はその中で厩務員と持ち乗り調教助手が「こういう馬を担当したい」と思っている、つまりどんな馬が好き?にスポットを当てていきたい。
僕たちは動物園や生産牧場などのように、種の保存や繁殖のために馬をお世話しているわけではない。オーナーの所有馬を預かり、いかにして良い成績をあげるか…それが厩舎従業員の仕事なのだ。
どんな馬でも一生懸命全力でやるのが当たり前だが、やはり色々な人がいて色々な馬がいる。綺麗事だけでこの仕事はやっていけない。
では厩務員(持ち乗り助手)が好きな馬(嫌いな馬)とは?大きく分けて5つある。
①性格の良い可愛い馬……
これは誰もがそうだと思う。担当馬が可愛いに越したことはない。稀に、噛む、蹴る、立ち上がって人を叩きにくる、などの「人嫌い」の馬がいるが、本当に仕事に行くのが嫌になる。
②調教や運動などが素直で誰でも乗れる馬……
僕たち厩務員は運動のみだが、それでも暴れたり他馬を蹴ったりする馬は疲れる。馬によっては周りの人に謝ってばかりの時もある。
乗れる人が限られている癖馬は大変だ。厩務員は乗らないが、助手が調教で暴走したり暴れて落ちたりするのを見ていると悲しくなる。そんな制御のきかない馬はほとんど出世はできない。
③飼葉食いが良く健康で故障しない馬……
飼葉食いが極端に悪い馬は筋肉増強や補修ができない。怪我や疾病が多い馬は引退抹消も早いし、長く付き合う事ができない。獣医さんに診せる仕事も増えるだけだ。
④馬房内での癖が良い馬……
厩務員の仕事の中で馬房内はかなりのウェイトを占める。敷料(ウッドチップや藁)を全面に満遍なくボロ(馬糞)や小便をして、さらにかき混ぜる馬などは最悪だ。その他、馬房内でずっと歩き回ったり(旋回癖)、穴を掘ったりする癖は本当に仕事が増えてやっかいだ。
⑤最後はやはり成績の良い馬……
①~④が完璧でもJRAでは3歳の夏までに勝てないと1年ほどしか担当できない。ある程度成績が良くなければ、いくら可愛くても長いお付き合いはできないのだ。
もちろん大きなレースに挑んでいくのはこの馬社会一番の楽しみでもあるので、担当馬の成績が良ければ良いほど楽しく仕事ができるのは当然だ。
この5つの項目を5段階評価にしたなら、前厩舎時代のマチカネハナノエン(1990~1992在厩)が ①5 ②5 ③5 ④4 ⑤3で僕の最高ランク。
今担当しているトニ男は ①4 ②3 ③3 ④5 ⑤2 くらい。
ちなみにエアグルーヴは ①5 ②3 ③3 ④4 ⑤5 かな?
はたして、この項目全て完璧な厩務員冥利に尽きる馬なんている(いた)のだろうか…