栗東トレーニングセンターに就職してから、42年の歳月が流れた。
僕が初めて来た頃と比べたらトレセン内は大きく変貌し、厩舎の建て替えを含め年々新しい建物や施設ができている。
今回は栗東トレセン探訪と題して、現在のトレセンの姿を見ながら、昔話を織り交ぜて場内を紹介させてもらおうと思う。
巨大な施設なので数回かけて不定期に寄稿させていただく。もちろん写真NGの場所もたくさん存在するので、その辺は気をつけてやっていきたい。
現在、栗東トレセンの厩舎構内(スタンド、調教コース含む)には、凱門(かちどきもん)、倉見門、西門の3つの門からの入場となる。
そのうち今回はメインとなる凱門(かつての正門)から、トレセン内に入ってみよう。
この門から場内に入るにはJRAが発行した写真付き通行証というものが必要で、縁の色で業種が分かるようになっている。僕たち厩舎関係者は青色の縁どりだ。
その他、宅配便など色々な外部業者や厩舎関係者の知人などは、門の横にある受付で必要事項を記入すれば入る事ができる。
僕らが若い頃は、丸いバッチみたいな文字だけの簡単な通行証だった。
その通行証を無くした人が、再発行するのが面倒臭くて、丸くて似ている物をサッと見せてよく各門を通っていた。当時は警備もまあまあ甘くて、ガードマンによっては何を見せても通れたんではないかな?
今となっては時効だが、「どんなもので通ったか大喜利」みたいな事も流行っていた。たとえば牛乳瓶のフタとか…
稀にめちゃめちゃ厳しいガードマンに見つけられて、こっぴどく叱られ調教師に連絡されて、始末書を書かされる人もいた。まあ今なら通行証偽造とかで謹慎くらってるやろうね。ゆるくてええ時代やったなぁ…
そんな凱門に入ると、一直線で馬場(スタンド)方面に向かう道がある。
最初の交差点を東西に走る道が栗東トレセンのいわゆるメインストリートで、左に曲がってすぐ競走馬診療所がある。
昔は右に(西に)曲がってすぐの所に競走馬診療所があったが、現在は厩舎地区になっている。
21世紀の競馬ファンの方々は知らないと思うが、90年代終わりくらいまでは、日曜の午後から木曜の午後までの日中、誰でも事務所で受付すればこの凱門(当時は正門)を通って歩いて入場し、トレセン内の一部の施設を見学できたのだ。
僕もサラリーマン時代の20歳くらいの時、友人と一緒にトレセン見学に来た事があった。
その時、ちょうど診療所に向かう馬を連れた厩務員さんが僕らの前を通り過ぎた。それをじっと見ていたら「ファンの人か?診療所で電気針するけど見においで!」と言って下さった。「正門から真っ直ぐの道以外の場所には行かないで下さい」と言われていたが、「自分らから行った訳ではなく、厩務員さんが誘ってくれたんやからまぁええか!?」と思い、診療所の中に入り電気針治療を見せてもらった記憶がある。
そんな昔の事を思い出しながら、かつての見学コースを辿ってみよう。
真っ直ぐ歩くと、馬場の手前の馬待機広場に出る。そこに大きなスタンドと小さなスタンドがある。
昔は調教師や騎手、助手や厩務員にいたるまで、成績の良い人達がこのスタンドで威張って吹きまくっていたのをイジって、スタンドの事を「天狗山」と呼んでいた。スタンドの大小で「大天狗」「小天狗」とも言っていた。
小さなスタンドを右に曲がった所に、通称「たぬき山」(多分、狸が住んでいたんだろう)と呼ばれる小山がある。見学者はスタンドの方には行けず、この山に登って調教コースを見学することになっていた。
この山からは調教コースが一望できて、坂路コースの半分も確認する事ができる。
ただ当時の見学時間は調教が終了した後くらいだったので、コースを走る馬を見る事はほとんどできなかった。
かつて、この山の右側に観覧スタンドと迎賓館(皇室専用)があり、見学者はこのスタンドにも入る事ができて、GⅠレースの追い切り見学(抽選)などの団体も、ここで観覧した。老朽化で2つとも取り壊された。
コロナ禍からはずっとやっていないが、 現在一般の抽選見学などは大きなスタンドで行なっている。
このたぬき山の上には、3冠馬ナリタブライアンの銅像、武田文吾調教師の銅像、そして休憩小屋がある。
かつて見学があった頃は、この小屋に解説の音声ガイダンスが設置されていて、ボタンを押したらトレセンの解説が流れるようになっていた。
僕らも天気の良い日、よくこの山から担当馬の調教を見たものだ。
たぬき山の東斜面の下は立派な桜が咲くので、花見の時期は各厩舎やクラブなどで場所の取り合いなどがあり、隣グループとの小競り合いの喧嘩とかも頻繁にあった。懐かしいなぁ…
トレセン厩舎構内の通常の一般見学が無くなってかなり経つが、ファン時代の僕が感動したように、ファンの方々がトレセン内を見て回れる機会を、またたくさん作ってほしいと心から思う。