定年退職までの約1ヶ月、色々な出来事があり、このコラムでもたくさん書かせていただいた。
その狂騒曲もとうとう終わりを迎えた。
僕の最後のレースには、大勢の知り合いが来てくれたが、その中には北海道や関東から来てくれた人の姿もあった。
一言で表すと「感謝」しかない。僕は何という幸せ者だったのだろうか…
僕は若い時から現在に至るまで、アイドルからスポーツ選手まで幅広いジャンルのオタク活動をしていた。
その推しの団扇などはある人に毎回作ってもらっていた。
その人とは「馬の年賀状」で紹介した、ここ数年パソコンで年賀状製作をしてもらっていた、ヤタチこと杉浦友紀助手(田中克典厩舎)の奥さんだ。
そのヤタチが僕の名前の団扇を製作してくれて、共通の友人達と一緒にサプライズでパドックに来てくれていた。
思わず二度見してしまった。

レース後の落馬などでちゃんとできなかったが、フラワーセレモニーまで用意してくれた梅田調教師夫妻にも感謝しかない。
梅田先生は僕みたいなポンコツ老厩務員に常に優しく接してくれ、辞める直前は僕のわがままな願いをほとんど叶えてくれた。
約17年間お世話になり、能力の高い馬もたくさん担当させていただいた。
期待には沿えなかったが、心から感謝している。

最後の日は、夕方栗東に帰ってから馬のチェックをし、友人らが待つ居酒屋へと車で向かった。
その居酒屋とは、栗東から車で1時間30〜40分かかる、大阪の泉佐野駅近くにある「さのちり亭」(酒馬放浪記①参照)。
北海道から来てくれた友人が朝イチの便で帰るので、関西国際空港に近いこのお店で、僕の定年退職祝い宴会をする事になったのだ。

集まってくれたメンバーは、嫁さんと北海道から来てくれた友人、大阪の友人、尼崎の友人、そして平田厩舎の石井助手(全国競馬場探訪~東京競馬場~参照)の5人。



前日の東京競馬からの、京都競馬場、そして帰ってすぐ大阪泉佐野で宴会。
疲れ切った身体に、新鮮な海鮮と銘酒が染み渡り、遅くまで楽しく飲み明かした。


そして、次の日の栗東トレセンは月曜日の全休日。
前日は飲み過ぎたが、嫁さんの運転で寝て帰ったのでスッキリ起きれて、朝イチで厩舎へと向かった。
いつもの月曜休日と同じように、前日のレース後に躓いたトニ男の脚元のチェックと、馬房掃除などを黙々とこなしていった。

休みの日でも栗東に居る限り必ず厩舎に出てきていたが、もうこれが厩務員として最後の厩舎作業の日だ。
しばらくすると、前日トニ男に乗ってくれた藤岡佑介騎手が、休みの日なのにわざわざ厩舎に来てくれた。
僕が厩舎最後というのと、トニ男を心配して来てくれたのだ。

この日も「せっかくの田中はんの最後のレースやったのに、僕がオチをつけてしまって(レース後の落馬)、申し訳ない!」と笑顔で話してくれた。
佑介は子供の頃から知っているが、とんでもなく優しい男だ……
近々調教師転向が噂されているが、彼なら馬にも従業員にも優しいホワイト厩舎を作るのは間違いない!
藤岡健一調教師をはじめとする、佑介、康太の親子の事はいずれ「My Respect Horseman」シリーズでゆっくりお話させていただこうと思う。
この厩舎作業最終日は、馬だけでなく人間の荷物の片づけなど色々あり、3時間くらいは厩舎にいたような気がする。

「もう明日から厩舎に出てこなくてええんやな……でもやり切ったな!」
厩舎を去る時、とても晴れやかな気持ちになった。