UMATO

2025年10月04日 (土)

 7月9日の定年退職の日、今までお世話になった皆さんにご挨拶の意味合いもあって、厩務員として最後のトレセン場内に入った事を以前書いた(栗東トレセン探訪⑦参照)。
 その時に構内を回ったついでに、坂路コースへと続く逍遥馬道の中に入った。
 UMATOに載せる為のネタ作りの意味合いもあったが、この逍遥馬道は僕の厩務員人生のスタート頃に出来て、今まで幾度も歩いてきた場所。
 端から端まで歩くのは、いつぶりか忘れたくらい昔の事なので、最後にその景色を見てみようと思ったのだ。

 この逍遥馬道ができたのは坂路コースができた1985年の数年前だと記憶している。
 それが坂路コースを作るための段階的なものだったのか、ただゆるやかな坂道を歩かせるという調教の一貫だったのか、僕の知識では分からない。

 僕が栗東トレセンに入った1983年から数年、午後から厩舎の数人でこの逍遥馬道を乗り運動するのが日課となっていた時期がしばらくあった。
 ただ同僚の誰かが馬から落ちて、放馬して捕まらず大変だった事から、厩舎周りの運動場に戻ったという経緯がある。

 その時代の事を思い出しながら、めちゃくちゃ久しぶりに逍遥馬道の全路を歩いた。

 かつてここを馬に跨って運動した時は西側の出入口から入ったのだが、今回は梅田厩舎に近い東側から入ってみた。

逍遥馬道への東側の出入口の手前付近。調教時間中は行く馬と帰ってくる馬でごった返す。
東側の逍遥馬道の出入口。よく坂路コースや馬道で落馬して放馬した馬が、ここから凄い勢いで走ってくる。

 梅田智之厩舎は東厩舎地区の一番端のブロックで、次の調教までの時間があまりない騎手などに調教を乗ってもらった時などは、東側の逍遥馬道出入口の手前で待って担当馬を受け取るのが常。だからよくこの付近で馬が帰ってくるのを待っていた。

 厩舎によっては、厩務員さんが歩いてこの逍遥馬道の頂上あたりにある、坂路コースの厩務員待機所までの往復、馬を引っ張って行く事もある。

逍遥馬道の東側出入口から入ってすぐの所。一方通行ではないので多い時はここをたくさんの馬がすれ違う。

 下は柔らかなウッドチップで人間にとっては歩きにくい。しかも雨上がりで締まった地面に馬が歩きまくった後半などは固めでデコボコになり、脚を取られてとても疲れる。しかも行きはほとんどが上り坂で、馬の歩くスピードについて行くのは至難の技だ。

 僕がここを馬を引いて歩くのは、坂路コースのスタンドで騎手などと馬の乗り替わりがある時や、僕らが引っぱらないと歩かない馬、うるさくて乗り手があぶない馬など、必要にかられてのみだった。
 これを厩務員に毎日のように義務付けている調教師(引退含む)は、自分がこの逍遥馬道の上り坂を馬と一緒に歩いた事があるのだろうか?と、いつも思っていた。多分ないだろうな…

東側から逍遥馬道に入ると、下りも少しあるが、坂路コースのゴールあたりまではほとんどが上り坂。
午後からはデコボコになった馬道を直す為に、コース整備の車がひっきりなしに通る。
こういったカーブの上り坂がずっと続く。
左側の壁の向こうは、田園と住宅街だ。(栗東トレセン探訪⑤参照)

 逍遥馬道のだいたい中間地にあるのは、坂路コースの厩務員待機所と調教スタンド、ウォーミングアップ用角馬場など。
 その直前の右側の林の中に、僕達の秘密の場所があった。
 それは、カブトムシやクワガタなどが多く集まる「秘密の木」だ。若い頃はよく夜にトラップをしかけて、長靴を履いて(毒蛇予防の為)虫取りに出かけた。知り合いの子供たちを連れて行ったこともある。「まだ虫たちおるんかなぁ…」と思い出しながら、そこを通り過ぎた。

この中を50mくらい入った所に、僕達しか知らなかった秘密の木があった。今回さすがにトラブルが怖くて入るのを断念した。

 坂路コースのゴール地点から少しの所には、厩務員さんの待機所があり、東側からならその手前に広い馬待機場所がある。
 ここで厩務員が周りながら乗り手を待ったり、騎手や調教助手などが馬を乗り換えたりする。

このTVモニターが見えたら、坂路コースのゴール地点を過ぎたあたりにある、厩務員待機所がほど近い。
坂路コースのゴールを過ぎた所にある、馬の輪乗り場所。ここで馬を乗り換えたりする。左側にある建物はその騎乗者の待機所。
坂路コースのゴールを過ぎたあたり。左側は担当馬を待っている厩務員などの待機所。

 僕たちがここまで馬を連れてきたり、2歳馬などが坂路調教の帰りにゲートへ行くのに付き添う時など、この待機所でTVモニターを見ながら待っている。
 この待機所の前を坂路調教を終えた馬が、スピードを落として走っていくのだが、馬が止まらなく暴走して落馬する事故が多発する場所でもある。

厩務員待機所を過ぎたあたり。この辺でキャンター(駈歩)からダク(軽速足)にスピードを落とす。でもこのコンクリートの壁にぶつかる勢いで馬が走ってきて、落馬する事もある。

 厩務員待機所を右手に見ながら進むと、左側に坂路コースの調教スタンドがある。

 調教師、JRA職員、JRA獣医などの関係者が調教馬を観る場所だ。

左側に4階建ての調教スタンドが見える。坂路コースのスタンドにいる調教師は昔も今も、人が決まっているようだ。ここに足を踏み入れない調教師も多い。

 だいたい、このあたりが逍遥馬道の中心くらいで、坂路コースの頂上あたりになる。

 ということは、ここから西はゆるやかな下りが続き、坂路コースのスタート地点があるという事だ。

逍遥馬道レイアウト(JRA発行)。外周2400mはある馬場の3分の2以上を覆うようにあり、とても長いのがわかる。

 次回は、調教スタンドから西側、坂路コースのスタート地点方面などを紹介したい。

つづく

田中一征 (Kazuyuki Tanaka)

1960年大阪府泉大津市生まれ
JRA栗東トレーニングセンターで、1983〜2007伊藤雄二厩舎、2007〜2025梅田智之厩舎に厩務員として在籍し、2025年7月に定年退職。

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