UMATO

2025年10月04日 (土)

 ひと昔以前は、坂路コースのゴールの先にある厩務員待機所は、かなりの人が担当馬を待っていて、うどんコーナーもあった。
 つまり、この場所で順次馬を乗り替える厩舎がかなりあったということだ。

坂路コースのゴールを過ぎたあたりにある、厩務員待機所。

 前回も書いた通り、馬に乗って来るならまだしも、厩務員が馬を引いてここまで歩いてくるには相当の脚力と元気が必要だ。
 僕が若い時、馬によっては仕方なしに引き馬で毎日ここに来ていた時期もあったが、年配の人達には少し酷な気がする。

 待機所を過ぎると、坂路コースの調教スタンドを横目に坂路のスタート地点へと下る道と、馬場のE(外)コースのゲートへと降りる道がある。


 2歳新馬などは、坂路1本乗った後にゲート練習をするというメニューが多く、この道を利用してゲートへと向かう。

左側の建物は坂路の調教スタンドで、右に下っていく道は本コースのゲートへ続いている。
逍遥馬道からゲートへと向かう一方通行の道。トンネルの上は坂路コース。

 坂路のスタンドは、自厩舎の馬の調教を見る調教師やJRA職員などが詰めている。本コースのスタンドのように記者室などメディアがたくさん集まる専用の部屋はない。
 基本、僕たち厩舎従業員はこのスタンドに入る事はないが、友達などをトレセン見学で招いた時などのみ、屋上に案内して坂路や逍遥馬道の景色を見てもらう。

逍遥馬道から見た坂路専用の調教スタンド。
正面から見た、坂路の調教スタンド。
調教師などが使うエレベーターもあるが、僕らも入れる屋上に行くには階段を4階分上がる。

 調教スタンドの屋上からは逍遥馬道のほか、坂路コース800mのうち残り500mほどの直線が見え、本コースやゲートも見える。

坂路調教スタンドの屋上から、今通ってきたあたりの景色。ゴールを過ぎたあたりの厩務員待機所が見える。
坂路調教スタンドの屋上から、坂路コースのゴールあたりと、本コースやゲートなどが一望できる。

 この逍遥馬道は現在、坂路コースへの道として使われているが、軽速足(ダク or トロット)などのウォーミングアップをする場所が2ヶ所ある。
 そのうちの一つは、調教スタンドの目の前にあるが、ここを使う馬は少ない。

調教スタンド前にある、ウォーミングアップ用の角馬場。

 調教スタンドを過ぎると、ゆるやかな下り坂がしばらく続く。最近新しく中央分離帯ができて、一方通行になっている。
 もっと東の方が上り下りの馬でごった返すので、ここだけ二車(馬)線というのが何か違和感がある。

逍遥馬道のちょうど中間地点あたりから西側にかけて、最近中央分離帯ができて、片側交互通行になった。
右側のタワーあたりが坂路コースのゴール付近。
その先もずっと中央分離帯があるが、朝どれくらい混んでいるのかは、僕らには分からない。

 そしてしばらく下ると、馬場と行き来する地下道が現れて、その先にもう一つの角馬場がある。ここが坂路調教のメインのウォーミングアップ場ということになる。
 逍遥馬道は馬場開場時間より早く入れるので、ここに早めに入り軽く乗ってから、坂路コースへは行かずに地下道から馬場へ行く馬もいる。

左側に見えるトンネルが、本コースの馬場と逍遥馬道を行き来する地下道。
角馬場近くには、監視小屋と練習用ゲートもある。
主に坂路コースで調教する馬が、ウォーミングアップの為に使う角馬場。

 角馬場から見て左側は残りの逍遥馬道で、西厩舎地区へと続いている。
 右側の道は坂路コースのスタート地点に向かうが、この下りが逍遥馬道の中で一番馬がうるさくなる場所だ。
 それは馬にとって、今からしんどい坂路を上がらなければいけない、つまり嫌な事をさせられる怒りなどと、他の馬が垣根の向こうから坂路を駆け上がる音による興奮だ。

坂路コースのスタート地点へと向かう、最後の下り。ここでよく僕の担当馬が止まって動かなくなった。

 僕の担当馬の中で昔、この下りを止まって動かない馬がいた(ファインモーションなど)。毎日のように下まで引っ張りに行った思い出が蘇ってくる。
 馬に乗っている人たちはこの下りからカーブしてのスタート地点、道中、そしてゴール過ぎたあたりと、一瞬たりとも気が抜けない。

坂路コースのスタート地点への最後のカーブ。ここを興奮した馬があわてて曲がるので、コケて落馬する時も稀にある。
坂路コースをスタート地点から見た所。

 そして、この逍遥馬道は先ほどの角馬場の左側から、西厩舎地区へと向かう道が残り少しだけある。
 かつて僕らが20代の頃、この辺に2つの池があり、夕方仕事が終わってから厩舎の皆で釣りに来た。釣れるのは鯉や鮒や雷魚くらいだったが、僕らの楽しみの一つだった。
 ここを歩いていると、若かりし僕らが笑いながら竿を持ってすれ違っていくような、タイムリープのアニメのワンシーンみたいな絵が浮かんできた。

かつて僕たちが釣りをした池は、今は浄水場になっている。
ここが東側から歩いた逍遥馬道のゴール。西厩舎地区からのスタートでもある。

 このように馬たちは朝の調教時間になると、西側厩舎地区や東側厩舎地区、地下道などを通ってこの逍遥馬道にたくさん集まってくる。
 その風景はまさに、「馬の通勤ラッシュ」と言ってもいいだろう。

田中一征 (Kazuyuki Tanaka)

1960年大阪府泉大津市生まれ
JRA栗東トレーニングセンターで、1983〜2007伊藤雄二厩舎、2007〜2025梅田智之厩舎に厩務員として在籍し、2025年7月に定年退職。

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