栗東トレセンの厩舎構内にある「競走馬診療所」。
ここは数年前に新しく建てられた施設で、世界でも類を見ない(多分)競走馬専門の病院だ。


競走馬診療所はJRAがどのように公開しているかよく分からないので、施設の内部など細かな情報は省かせていただくが、治療棟や手術棟、入院馬房などがとても充実していて、最先端の医療機器なども揃っている。


競走馬診療所の他に、JRAに認可をもらって個人で開業している獣医さんもいる。
そんな獣医さんは厩舎単位で曜日や時間を決めて定期的に回診していて、僕たちもずっと診てもらっていたが、またそういった開業獣医さんや馬の治療の詳しい話は改めてさせてもらおうと思う。
かつての競走馬診療所は伊藤雄二厩舎に近かった事もあり、よく午後から担当馬を連れて鍼治療や電子器具(低周波やSSPなど)での治療に出かけた。
馬によっては毎週2〜3回とか行っていて、午後は診療所に通うのが当たり前の時期もあった。
僕の担当馬の中でも、手術や入院をした馬は数頭いたし、アラブの未出走馬だったが手術中に死んでしまった馬もいたりで、旧競走馬診療所にはたくさんの思い出がある。
前回の「マチカネハナノエン」の話で書いたように、昔は1頭の馬がトレセンに滞在している期間が、今とは違ってかなり長かった。
放牧に出して休ませれば、筋肉や血液なども浄化されて体力が回復するのは分かってはいたが、いかんせん近くに牧場が少なかったので、仕方なくトレセン診療所などで治療してレースへ向かっていたのだ。
最近は馬が疲れたらすぐ近くの牧場に放牧に出すし、厩舎単位で高価な治療機器のレンタルや購入などをして、厩舎内で厩務員が高度な最新治療をするようにもなった。
そんな時代になり、診療所で普通の診察治療などをする事はほとんどなくなってしまった。
診療所に担当馬を連れて行くのは、手術を要する疾病などの時、開業獣医さんが厩舎の馬房内でやるには手に負えない治療の時、疝痛(腹痛)など急を要する時、馬の骨や腱や靭帯などのX線、エコー検査などをする時、などがあるが、今は一度も行かない年もザラにある。
いや、行かないというのは馬が健康な証で、とてもいい事なのだ。


最近僕が診療所に担当馬を連れて行ったのは、ヒデノブルースカイ(ありがとう豊!さよなら中山!参照)の、診療所にある木枠に入れて精神安定剤を打ち抜歯をする為と、1年半程前にレースで剥離骨折した馬の手術〜入院だ。




この写真のヒデノブルースカイの抜歯治療などは、重い疾病ではなく簡単な治療だが、トレセンの診療所に馬を連れて行くというのは、今はあまり僕たちにとっては前向きな事例ではないかもしれない。
JRAの競走馬診療所の獣医さん達は、最新の馬のスポーツ医学などを勉強し、その知識を冊子や講習会などで僕たち厩舎関係者に逐一教えてくれる。
そして新しい治療方法などを日々考え、馬の不治の疾病からの寛解などに常に取り組んでいる。
日本の馬が世界に誇れるような成績を残すようになったり、怪我をした馬たちが復活してレースに戻って来れるのは、こうした獣医さんのたゆまぬ努力も大きな要因だと思う。
厩舎関係者は心から感謝しなければ…
つづく






