JRAの競馬場は全国には10ヶ所。その中で小倉競馬場が多分一番人気だと思われる場所がある。
それは厩舎構内にある厩務員食堂だ。

朝も昼も夜も常にたくさんの人で賑わっている。
その他の競馬場の中には、全く人気のない厩務員食堂もあるが、それは言わずにおこう。

小倉競馬場の厩務員食堂は、安くて美味くてボリュームがあり、夜などは酒類も提供され、アラカルトメニューも豊富なのでとても人気がある。
昨今の食材の値上げ事情もあり、今や街の居酒屋などで飲食すると、1人5000円以内で納めるのはなかなか難しい。
でも小倉競馬場の厩務員食堂なら、酒の肴も豊富で安く飲み食いできる。各種お酒のボトルキープも可能で、パック詰め・瓶詰めなどの酒のアテもキープできる。
外出規制があったコロナ禍の時期からさらに人気となり、今でもJRA全国10場の厩務員食堂の中では圧倒的な集客率を誇っていると思われる。
滞在の人達と直前輸送組が到着して重なる金曜の夜や、競馬が終わった人達(馬運車の運転手も)が帰る前に腹ごなしをする土曜・日曜の夕方などは、満席で入れないのもよく見る光景だ。夕方16時台後半から終わる時間(20〜21時?)まで入り浸りで、ベロベロに酔っ払って千鳥足で飼葉を付けに帰る厩務員(助手)も多数いる。現在は一応、全国の競馬場へのお達しで土曜と日曜の開催日は17:00以降でなければお酒類を出してはいけない事になっている。
酔っ払ってパドックで馬を引いたり、帰りの馬輸送(れっきとした仕事)に支障が出ないようにだ。このルールは過去に競馬場で酔っ払ってのトラブルが続出したから作られた。
まあそのルールが今どこまで徹底されているか、僕は知らない。
朝の定食も安くて品数が多いし、夜のちょっと風紀の乱れたカオスな居酒屋状態が苦手な人でも、朝ごはんだけは食堂で食べると言う人も少なくない。
かくゆう僕もその1人なのだが…

もうひとつ、僕が昭和の小倉競馬場での滞在で、一番印象に残っている飲食のお店がある。
いや、お店と言っていいのかどうか分からないが、一応「和(かず)」という屋号はあった。
時代は僕がこの世界に入ってから10年くらいの間、つまり平成に入るかどうかくらいまで小倉競馬場の調教スタンド1階で開業していたお店だ。

詳しい事は知らないが、小倉競馬開催期間だけ調教スタンド内で営業して、他の時期は普通に街のどこかで営業していたと思われる。
営業時間は夏と冬では若干違ったと思うが、朝の7時〜8時頃から始まり、途中昼の休憩はあったが夜の20〜21時頃までやっていた。
調教スタンドは厩舎構内にあり、もちろん関係者以外の人は入れないので、競馬関係者に特化した簡易居酒屋ともいえる。
そのお店「和(かず)」は、調教スタンドの1階の厩務員が調教を見たり休憩したりするスペースの後ろ側にあり、厩舎側の馬が輪乗りしているスペースに面していた。
テーブル席が4つ程度と、外の運動場を見る感じで窓際にL字型のカウンター席があり、お酒一通りと、居酒屋と大衆食堂の基本メニューなど一品多数を提供。
あとラーメンやうどん、焼きそば・焼うどんの麺類もあり、定食スタイルにすることもできた。
安くて便利だったので、常連の入り浸り厩務員も多数いたのを思い出すが、僕も厩務員食堂と併用してよく利用していた。


朝、まだ仕事している人がいる時間帯にお店は開店。
夏の小倉開催時などはスタンド1階の厩務員席で馬の調教を見ている人のすぐ後ろで、朝早くからキンキンに凍らせたジョッキを飲み交わして大声で喋っている人達をよく見た。
仕事している人と酒飲んでいる人、2種類が同じ空間に存在するこの場所には違和感しかなく、笑うしかなかった。

さすがに僕は午前中からお酒は飲まなかったが、ある日「和」のカウンターで朝ご飯(焼きそば)を食べていると店員が「あちらの方から」と、生ビールを運んできた。振り返るとトレセン野球部の先輩が「おぅ!田中、飲め飲め!」と笑顔で手を振っていた。
「いやいや、都会のバーか!」と心の中で突っ込んで「ありがとうございます!」とお礼を言った。

真面目で勤勉な若者が増えて頼もしくなった反面、あの汚れ厩務員がたくさんいて笑顔が溢れていた昭和が懐かしくもある。






