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 前回、厩務員や持ち乗り助手が嫌いな騎手とは?という話を書いたが、これはそういった騎手達を悪者にしようとしたのではない。幸騎手を際立たせる為のプロローグだったのだ。

 上位の厩舎で良い馬をやらせてもらったおかげでGレースを勝たせてもらった、他力本願厩務員ごときが「騎手の悪口?偉そうに何を言っている」とお叱りを受けそうだ。

 騎手は運だけの厩務員と違いほぼ実力の世界だし、自分に全く非がなくても大怪我につながる事故に巻き込まれるケースもある。毎レース命がけで馬に乗っているのだ。
 僕が騎手に願うのは「まず人馬無事、その上でひとつでも上の着順を…」だけだ。

 馬がレースでひとつでも上の着順になるよう騎手を選ぶのは、オーナーや厩舎サイドの大切な仕事。
 騎手が手を緩めるとすぐ真剣に走るのを止めてしまう馬(ズブい馬)などは、よく考えて騎乗依頼をしなければいけない。

 そういう馬こそ、幸英明騎手に頼みたい。

2024年小倉2歳S(中京競馬場)エイシンワンド優勝時の幸英明騎手。(撮影 岡田修平)©Shuhei-Okada.com
同じく2024年小倉2歳S優勝時の幸英明騎手。(撮影 岡田修平)©Shuhei-Okada.com

 もうベテランの域に入っている幸騎手だが、馬が心身ともに無酸素状態でバテバテの時など異変を感じた時を除き、後方でも最後までしっかり追ってくれる姿は昔と何ら変わらない。
 競走馬は最後まで全力で走るか止めてしまうか、その2択で自分の寿命が決まってしまうと言ってもいい…その意味を幸騎手はよく分かってくれているんだと思う。

 そして幸騎手は競馬で調教師や臨場調教助手などがレース後に話を聞いた時、いつも僕たちが納得する的を得たコメントや助言をしてくれる。

 10年くらい前だっただろうか、小倉競馬場へ出張へ行った際、同僚の担当馬のレースをお手伝いに行った。レースは未勝利か1勝クラスだったと思うが、惨敗続きの12〜3番人気の馬を幸騎手が何と2着にもってきてくれたのだ。
 スタッフ皆が喜んでいる所に幸騎手が上がってきた。
 その第一声は「いやぁすみません!僕がもうちょっとうまく乗っていたら勝てたのに…」

 こっちから先に「ありがとう!」と言おうと思っていた皆がポカーンと顔を見合わせた。

後方でもできるだけ馬を緩めず追ってくれる、幸英明騎手。(写真提供 ファンの方)

 最後に僕が幸騎手に乗ってもらったのは、2025年2月22日の京都競馬場9Rつばき賞(3歳1勝クラス)。
 出走のダイシンラーのトレセン1週前調教に幸騎手が乗ってくれた。

 調教スタンド前の広場で待ち合わせたが、相変わらず爽やかな笑顔で登場。
 そしてダイシンラーに跨り、僕が引っ張って、アップの為に外の角馬場へと向かった。

2025年2月、角馬場でダイシンラーのアップをする幸英明騎手。
同じく、角馬場の幸英明騎手。
2025年2月、栗東トレセンCWコースでダイシンラーの追い切りをする、幸英明騎手。

 その時、角馬場から引き上げてくる厩舎の馬数頭とすれ違ったが、幸騎手は「おはようございます」と、自分より若い人がほとんどのその軍団に2〜3度挨拶をしていた。

 その中に知っている人もいたのかもしれないが、僕が感じたのはとても自然な日常の挨拶の風景だった。

 厩舎従業員だけでも1000人をゆうに超えるトレセン内で、知らない人にすれ違う度に自ら挨拶できる人はそう多くはない。
 しかも名の知れたベテラン騎手がだ…

 この時の格好いい幸騎手を見て僕も、「いくつになっても自分から挨拶しよう」と改めて思った。

 そのダイシンラーのレースは3着だったが、レース後も相変わらず爽やかな応対をしてくれた幸騎手。彼は僕の中ではいつでも「ヨン様」だった。

 幸英明という男は、騎手のカテゴリーでは収まらない、競馬界隈全ての人達の中でも上級の「人格者」だと思う。

2026年2月28日、僕が観戦した阪神競馬場11Rの幸英明騎手。

 これからも「ヨン様」が騎手を引退するまで、1ファンとして応援させてもらうとしよう。

田中一征 (Kazuyuki Tanaka)

1960年大阪府泉大津市生まれ
JRA栗東トレーニングセンターで、1983〜2007伊藤雄二厩舎、2007〜2025梅田智之厩舎に厩務員として在籍し、2025年7月に定年退職。

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