2010年5月23日、一つの歴史の扉が開いた。 大雨の中で行われた優駿牝馬(オークス・東京競馬場・芝2400m)には18頭が出走、中でも不動の大本命馬は阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞と既にG1レースで二勝を挙げていて断然の人気に支持されたアパパネ。敵は同世代の牝馬というよりも大雨の天候とぬかるんだ馬場と見られていたが思わぬ結末が待っていた。
降りしきる雨の中で行われたレースは東京競馬場の難所である最後の直線の坂を上った辺りで8枠のピンク色の帽子の2頭が弾けるように伸びてきて内のピンク帽・横山典弘騎乗のサンテミリオンと外のピンク帽・蛯名正義騎乗のアパパネが残り200mで並んで先頭に立つとゴール板までお互いに一歩も譲らずに鼻面が並んだままゴール!
撮影位置から望遠レンズで狙うと内のサンテミリオンが勝っているように見えたが最後の最後で外のアパパネも首伸ばしていて、ゴール板の所で内の横山典弘騎手が外のアパパネを見ており過去の傾向から差されて負けている騎手が勝った馬の方を向いている事が多く、外が勝ったのかと思ったがどちらが勝ったのか直ぐには分からず、周りに居たカメラマンも同じで目を合わせると「どっちが勝った?」とお互いに言いながらスロー再生が放映されたターフビジョンを見ても結論が出ず、大雨に打たれながら結果が出るのを待ち続けた。
既にカッパを着ていてもビチョビチョの中で過去に経験した写真判定で一番の長さというくらいの時間待たされていたので体は冷えてくるしカメラは雨に弱いし、どちらが勝ってもいいしなんなら同着でもいいから早く口取り撮影して控室に戻りたいと思っていた時に着順掲示板に「同」の文字が点灯。
一瞬の静寂の後に場内からは大きな拍手が沸き起こった。
史上初の出来事に二頭が揃って同時に口取り撮影するのだろうか?と思っていたらそれぞれ別々に口取り撮影が行われた。 JRA史上初のG1レースでの一着同着という記録がオークスで生まれ、現時点で唯一無二の記録として人々の記憶に残っている。まさしくデッドヒート(よく接戦を表現する時に使われる言葉だが本来の意味は同着)を演じた二頭、サンテミリオンはこのレースが最後の勝ち星となり、アパパネは秋には史上三頭目の牝馬三冠を達成し翌年にはヴィクトリアマイルも制し、その後の両馬の明暗の分かれる結果となったが、この日の二頭の勝者は中央競馬の長い歴史の中でも歴史的な1日となった。
内と外に分かれたレースシーンはどちらかに狙いを定めないと撮れない場合が多いが、このオークスは最終的に二頭が並ぶようにゴール板を駆け抜けたので二頭がフレーム内に収まってくれたおかげでこうして1枚の写真で表現することが出来、仕事としてもミス無く納品する事が出来た。体もカメラも雨に打たれて更にG1レースの写真を失敗するという最悪の結果にならずに良かったと安堵した日でもあり帰宅後の熱い風呂がとても心地良かった事を思い出す。