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2024年11月21日 (木)

青草を食べてうれしそうな顔©大友和哉

 馬は本来、草食動物で外敵から身を守り逃げるため、視覚、聴覚、嗅覚などがとても優れています。家畜化され、かなり進化した現在でもその傾向は未だに強く表れています。その為、少しの音や動き、環境の変化などに敏感に反応し、人間の感覚で言うと、とてもオーバーなリアクションを取る事が多々あります。

 あんなに大きい彼らがオーバーなリアクションを取れば上に乗っていたり、側にいる人間にとってみれば危険以外の何ものでもないでしょう。しかしながら私達は彼らと共に高い障害を飛越したり、水の中に入って行ったり、また、難しい演技をしてみたり、大観衆の中、全速力で追い比べをするなど、様々な事を行います。

 それは初めからうまく出来る事ではなく、少しづつ信頼関係を深める事によって出来るようになっていくものです。危ないからと言ってその度に叱ってしまっては、彼らはあなたの事を信頼してくれるようになるはずはありません。なぜなら彼らは小さい子供と同じくらいの知能を持った動物だからです。彼らの習性を知ることは信頼関係を作る第一歩となるでしょう。

 基本的に彼らは人間に対して攻撃的な事は少ないです。本当は「攻撃的な事はないです。」と書きたいのですが、人間による扱いの手違いによって本来の姿でない事もあります。扱う人間によって彼らは様々な性格や行動をするようになります。そうした馬達を本来の姿に戻すことはとても難しいです。彼らは本当に記憶力が良く、悪い記憶を持ってしまうとふとした時に現れてしまうようです。

びっくりした顔©大友和哉
慣れない馬運車で不安そうな顔©大友和哉

 私もそのような馬と付き合い、競技に出場した経験があります。私も自分自身の腕を過信し、自分がやれば乗りこなせると思っていました。普段の練習や素行は大きく改善が見られました。「懐いてきてくれたし何でもできるようになった」と思い競技に向かいましたが、結果は散々でした。いざと言う時に拍車を使って前に出そうとした瞬間、彼はそこで止まって動かなくなりました。強すぎる扶助で悪い記憶が蘇ってしまったのでしょう。とても残念でしたが私の過信が招いた結果だと反省した苦い思い出となりました。それだけ悪い記憶の根は深くとても難しく彼らに寄り添う事の重要性を痛感しました。

 彼らの攻撃的な行為は彼らにとっては防御的な行為である事がほとんどです。しかし人間にとってみれば危険でしかない。この理不尽とも言える関係に対する答えを出す事は容易な事ではありません。私の現在の答えとしては習性を知り、行動を理解する事、その上で自身の感情に左右させず毅然とした態度を取る事が大事なのかなと思っています。

大友和哉

1986年生まれ
日本大学生物資源科学部獣医学科卒業後現在まで美浦近郊の育成牧場にて、獣医師兼ライダーとして競走馬の育成を主な業務として行いながら、日本大学馬術部のコーチとしても15年程務めている。現在全日本学生馬術大会13連覇中。
同時に馬術競技では総合競技を中心に積極的に参加し、主な成績は全日本学生馬術大会総合競技優勝、全日本総合馬術大会選手権競技5位、東京オリンピックテストイベント出場。
最近は競走馬のリトレーニングにも力を入れており、2023RRCファイナル総合馬術で3位入賞。

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