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2024年11月21日 (金)

 與杼、和布刈、桑折、許波多、早鞆。

 以上、これら難読地名を全て読めるだろうか。熱心な競馬ファンなら読める。「よど」「めかり」「こおり」「こはた」「はやとも」だ。

 これらは全てレース名。年季の入った競馬マニアなら、文字を見ただけで、どこの競馬場で行われるか、レース名を見ただけでピンと来る。そして、その競馬場の風景がありありと脳裏に浮かぶであろう。

 たとえば銀座で誰かに声を掛け、これらを全て読んでもらおうとしても恐らくパーフェクトは難しいはず。競馬ファンは難読地名に詳しいと胸を張っていいのである。

 このあたりも、なかなか難読か。皆生、御陵、糺の森、蹴上、英彦山、国東、鳥屋野、信夫山、遊楽部、恵山。

 皆生(かいけ)特別あたりは毎年、必ず阪神(24年は京都)で行われているのに、その読み方の由来を知らなかった。この機会に調べてみた。

 鳥取県米子市にある温泉街。「かいけ」は元々、この地にあった大きな池「海池」に由来するという。

 戦国時代末期に「海池村」として始まったが、江戸末期に「皆生村」と改名されたという。「皆生」に「皆、生まれ変わる」という意味があるという説もあり、なかなか伝説じみている。

 地名ではないが、筆者の好きなレース名は中山で行われる「伏竜S」と、京都や中京で行われる「鳳雛S」である。

 この2競走名の由来は魏・呉・蜀でおなじみの「三国志」だ。劉備玄徳が関羽、張飛と義兄弟のちぎりを結び、乱れ切った後漢の世の中で暴れ回る、あの話である。

 「伏竜」とは、まさに水中に伏せている竜のことで、優れた才能を持ちながら、まだ世に出ずにいる者のこと。

 「鳳雛」とは鳳凰(ほうおう)の雛のこと。こちらも、優れた才能の持ち主だが、まだヒナの状態、世に出ていない状態、ということだ。

 人材不足に悩んでいた劉備は、ある時、「伏竜と鳳雛。その両方を得れば天下取りも夢ではない」と賢者からヒントを授けられた。

 伏竜とは、のちに天才軍師となる諸葛亮孔明のことで、有名な「三顧の礼」の末に部下とすることに成功する。

 鳳雛は、これまた天才・龐統のことで、何と劉備はこちらもゲットする。龐統は悲運の将で志半ばで戦死するが…。

 JRAのセンスがいいと思うのは、この伏竜S、鳳雛Sがともに3歳春に設定されたレースということだ。まさに、ここを勝って大きくはばたく、というイメージが湧く。今年の伏竜Sを制したテーオーパスワードは、そこから米国へと飛翔し、ケンタッキーダービーで5着と奮闘した。

 伏竜S優勝から最も出世した1頭といえば、13年伏竜S優勝馬で、その後、14、15年フェブラリーS連覇を筆頭にビッグレースを勝ちまくったコパノリッキーを挙げることができる。テーオーパスワードにもこの先、諸葛孔明ばりの活躍を期待したい。

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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