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2024年11月21日 (木)

 今年も胸が痛む週がやってきた。今週は秋の3歳牝馬戦線を占うローズS。2010年の同レースを制したのは関東馬アニメイトバイオだった。

 ゼンノロブロイ産駒の同馬。オークスは11番人気ながら4着(1着はアパパネ、サンテミリオン同着)。直線でしっかりと脚を伸ばした走りに、テン乗りの後藤浩輝騎手はホレ込んだ。

 桜花賞出走時に輸送で20キロも馬体を減らした同馬。長距離輸送を避けるため、ローズS、秋華賞は栗東に滞在して臨むこととなった。後藤騎手も栗東に長期滞在して、連日、アニメイトバイオの手綱を取る熱の入れようだった。

栗東でのアニメイトバイオの追い切りにて。後藤浩輝騎手(右)と牧光二調教師©スポーツニッポン新聞社

 関西記者がひと通り、話を聞いた後、栗東に通っていた筆者とベンチで隣同士に座り、あれこれ雑談するのが日課となった。「関西弁は聞き方がきついよ。関東の記者さんと話すとホッとする」と言ってくれて、こちらも気持ちが和んだ。

 後藤騎手から聞いて興味深かった話がある。アニメイトバイオは凄く知能が高いというのだ。「人間がしゃべっていることをかなり理解しているのでは」と教えてくれた。当時、筆者は犬を飼っていた。「犬は完全に人間の言葉を理解している」と返すと「そうでしょう」と言って、後藤式持論がヒートアップした。

 角馬場で乗りながら、アニメイトバイオに言葉を教えているという。「ゴー」という言葉は完全に理解したと教えてくれた。”ゴー状態”の時に再度「ゴー」と言えば、さらに加速すると教えたい。そうすれば、アニメイトバイオは自分の限界を突破できるんじゃないか。そうしたら楽にGⅠに手が届くよ、と解説してくれた。

 ちなみに「バック」も教えているという。競走馬を後ろに進ませてどうするの?と聞いたら、「しつけるためにはいいかなと思って」。ライバル騎手がその情報を聞いて、レース中に「バック!」と叫んだら困るのでは?と疑問を呈すと「それもそうだ。それは困る」と話した。いかにも”ゴッチャン”ぽくて、ほほえましかった。

10年ローズSを制したアニメイトバイオ©スポーツニッポン新聞社

 そのローズS。アニメイトバイオは完勝を収めた。直線、馬群は横に広がり、馬群の中にいたアニメイトバイオは前が開かなかった。後藤騎手は慌てず、前が開いた瞬間に馬を追って、見事に抜け出した。アパパネをかわし、ワイルドラズベリーの追い上げを封じ切って1着ゴール。

 レース後、「夏に英国で勉強してきたことが生きた」と後藤騎手は話した。「前が開かなくてもフォームのバランスを保っておくことが大事。そうすれば脚がたまる。そして前が開いた瞬間に一気に加速させるんだ」。勝利を呼んだ秘中の秘をあっさりと明かしてしまうあたりもゴッチャンらしかった。

 秋華賞はアパパネの2着だったアニメイトバイオ。後藤騎手が栗東に泊まり込んで勝負を懸けたGⅠは2着に終わったが、力を出し切ったことに満足そうだった。後藤騎手があんな形で我々に別れを告げるとは思いもしなかったが、2010年の秋はゴッチャンのおかげで、自分にとっても記者としての引き出しが増えた。心から感謝している。

 ゴッチャン、そちらでも馬と話してますか?

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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