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 チャンピオンズCはジャパンCダートを前身として今年で四半世紀を迎えるわけだが、これは凄いとうなったベストレースがあった。第3回、イーグルカフェが勝った02年ジャパンCダートだ。

 東京競馬場の改修に伴い、この年は中山1800mで行われた。鞍上はランフランコ・デットーリ。レースVTRを見たことがない方は、ぜひパソコンなりスマホなりで見てほしい。デットーリの乗りっぷりには今でもホレボレする。

 スタートはわずかに遅れ、1角を8番手で回った。向正面でも小気味良く手を動かし、積極的に位置を上げていった。まず、この作戦に驚いた。イーグルカフェといえば道中はじっとして、ラストの決め手に懸けるイメージだったからだ。こんなところから脚を使ってしまうのかと少々、落胆したことを覚えている。

02年ジャパンCダートをイーグルカフェで制し、ガッツポーズのデットーリ騎手©スポーツニッポン新聞社

 だが、他の騎手より頭一つ分、姿勢の低いデットーリが動かすと、疲労を感じることなく馬が上昇するのである。ググッと前に迫って4角では3番手。しかも、最も手応えがいいのだ。これが本当に向正面で脚を使った馬なのか、と思うほどだ。

 周囲の馬との接近具合もタイトだ。車でいう“車両感覚”がデットーリはもの凄く優れていることが分かる。イーグルカフェも安心してドライバー(騎手)に委ねているようだった。

 そして外国馬アブリーズが下がって空いたインをサッと突いた。先に先頭に立っていたゴールドアリュールを残り150mでかわす。最後は外から突っ込んできたリージェントブラフを1馬身抑え込み、見事に勝ち切った。

ジャパンCダートを制したデットーリは馬から華麗にジャンプ©スポーツニッポン新聞社

 5番人気の伏兵。ここまでの4勝が全て芝で、ダートは7戦ぶりというイーグルカフェをあっさりと勝たせてしまう。早くデットーリの言葉が聞きたかった。記者会見がこんなにワクワクしたことはなかった。

 「前走(フランス・ロンシャンでのドラール賞3着)を見て、いい脚を使えることは分かっていた。強いと思って、道中はタケさん(ゴールドアリュール)をマークしていたよ。ポジション取りは…コーナーがタイトだし、直線が短いからね。4角であの位置にいなければ届かないよ」。完璧な回答だった。確かに説明した通りの作戦なら勝てる。だが、それが難しいのだ。それをあっさりやってのける。世界最高の騎手、その真髄を見た思いだった。

 小島太調教師は眼鏡を外し、そっと目元を拭っていた。「フランキーは凄い男。彼ならやってくれると思っていたんだ」

 小島太調教師とデットーリは家族同然の付き合いだ。師は騎手時代、毎年、夏になると自費でフランスへと渡り、騎乗のチャンスをうかがいながら現地の騎手と関係を深めていた。そんな時、騎手招待競走に乗るために来日する若手騎手(デットーリ)の面倒を見てくれないか、というオファーが入ったのだ。明るいデットーリはすぐに小島家になじみ、長男の良太調教助手(現在和田勇介厩舎)とは互いに「兄弟」と呼び合う仲となった。そこからの付き合いなのだ。

 この1カ月半ほど前、小島太調教師は凱旋門賞で厩舎のエース、マンハッタンカフェが13着に敗れ、屈腱炎で引退に追い込まれていた。同じ勝負服のイーグルカフェが成し遂げた大仕事に師は心を震わせた。「運命的なものを感じずにいられない。世界を目指す自分にとって、この勝利は本当に大きい」

 ひとしきり男泣きした後、いつもの明るさで「俺の飼っている犬の名前知っているか?そう、フランキーだよ。あいつ(デットーリ)みたいにジャンプはしないけどな」と笑わせた小島太調教師。いいレースを見たと実感しながら原稿を書いたことを昨日のように思い出す。

鈴木正 (Tadashi Suzuki)

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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