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2025年07月06日 (日)
北九州記念

クロフネ(左から2頭目)以下を引き離して快勝したアグネスタキオン(一番左)©スポーツニッポン新聞社

 競馬を見始めて、あと数年で40年となるが、レース前に最もドキドキしたレースを挙げたい。それは2000年のラジオたんぱ杯3歳S。今週行われるホープフルSの前身となったレースである。

 12頭立てだが、人気は3頭に集中していた。まずは外国産馬クロフネ。96年に開業し、前年の99年に管理馬がJRA重賞を4勝。大きな飛躍を期待されていた松田国英厩舎の一番馬だった。ラジオたんぱ杯3歳Sと同じ阪神芝2000mのエリカ賞を3馬身半差完勝して、ここに臨んでいた。

 この世代から外国産馬にもダービーが開放されることが決まっており、金子真人オーナーが開放初年度のダービーを制してほしいという願いを込め、ペリーの「黒船」に引っ掛けてこの名をつけた。単勝は1.4倍をつけた。

 そしてアグネスタキオン。同年のダービー馬アグネスフライトの全弟。デビュー戦はメイショウラムセス(のち富士S 1着)、ボーンキング(のち京成杯1着)など精鋭がそろったが、ここを3馬身半差の圧勝で通過していた。

 担当は全兄も担当する大川鉄雄厩務員。栗東トップクラスと評判の腕利きだ。長浜博之厩舎担当の専門紙トラックマンは「アグネスフライトより能力は上ちゃうか」と言う。どれだけ走るのか、想像がつかなかった。単勝オッズは4.5倍。

 そしてジャングルポケット。札幌3歳Sを圧巻の決め手で制していた。その札幌3歳Sで2着のタガノテイオーが続く東京スポーツ杯3歳Sを制し、3着のテイエムオーシャンは阪神3歳牝馬Sを2馬身差で快勝していた。その2頭を子供扱いしたジャングルポケットは相対的に評価がアップしていた。単勝4.8倍。

 4番人気馬は23.4倍と離れた。ファンも3頭の競馬だと思っていた。

 レースも実質、3頭の競馬だった。5番手でクロフネとジャングルポケットが並び、2頭をアグネスタキオンがマークして進んだ。

 3角を過ぎたところ、アグネスタキオンの河内洋騎手(現調教師)の判断が実にうまかった。ジャングルポケットがやや内に詰まり気味になっているのを見て、早々と外に出してクロフネの直後へと誘導した。アグネスタキオンは明らかにクロフネを意識したように見えた。フットワークに力がこもった。

 並ぶ間もなくクロフネをかわすアグネスタキオン。かわした瞬間のスタンドのどよめき、歓声は凄いものがあった。独特の首の高いフォームで必死に追うジャングルポケット。だが、アグネスタキオンは、はるか前へと抜け出していた。2馬身半差の完勝。2着ジャングルポケット、クロフネは3着だった。やはりと言うか、3頭の上位独占で大一番は終わった。

 その後の3頭の活躍は細かく説明するまでもないだろう。アグネスタキオンは4戦無敗で皐月賞を快勝。3冠を期待されたが、屈腱炎でダービーに出走することなく引退。種牡馬としてはダイワスカーレットなどを送り出し、成功を収めた。

 アグネスタキオン不在のダービーを制したのはジャングルポケット。秋には3歳にしてジャパンCを制し、この世代の強さを世界に知らしめた。

 クロフネはNHKマイルCを完勝。ダービーは5着に終わり、新たな歴史を刻むことはできなかったが、ダートに転じて武蔵野S、ジャパンCダートを楽勝。競馬史に残る伝説を残した。

 当時GⅢだったラジオたんぱ杯3歳Sが、レース名を変えながらGⅠへと昇格したことは、この3頭が演じた火の出るような名勝負が果たした役割も大きかったのではないか。レース前もそうだったが、結果を知っている今でも、このレースの映像を見るとドキドキする。アグネスタキオンが先頭に立った時のスタンドの歓声…いやー、たまらん。

鈴木正 (Tadashi Suzuki)

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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