今週は新潟で新潟大賞典。筆者にとって印象深い1頭が09年優勝馬のシンゲンである。大好きな1頭と表現しても過言ではない。
スポーツ紙のデスク経験者なら全員がもろ手を挙げて賛成してくれるはず。とにかく“見出しがつけやすい”馬だった。
馬名は言うまでもなく“甲斐の虎”、名将・武田信玄から。当初のオーナー、花木照人氏が武田家の末裔であるため、取っておきのこの名をつけたようだ。
よって、戦国的なワードを組み込めば、そのままキャッチーな見出しとなる。「買いの虎」「討ち取ったり」「天下取り」。重馬場であれば「水攻め」なんてのも可能。武田信玄が水攻めの名手だったかは知らないが(苦笑)。治水の名手ではあったけどね。
しかも、このシンゲン。スポーツ紙の期待通り?の戦績を挙げてくれるのである。5戦目に登場したのが「甲斐駒特別」。まさか、このレース名で負けるわけにはいかない。2番手追走から、あっさり抜け出して3勝目をマークした。

7戦目で初の関西遠征。京都の北野特別に挑んだ。歴史マニアなら結果はお見通し。信玄同様、京で凱歌を上げることはかなわないのである。2番人気で9着に敗走。4角3番手から直線でモガく様子に、後ろから武田信玄が引っ張ってブレーキをかけているのかと思ったほどだ(誇張あり)。
甲府に今、競馬場はないが、信玄が好む競馬場があるとすれば、やはり中央本線でつながる東京競馬場だろう。ということで、東京競馬場で計4勝を挙げ、シンゲンはめでたくオープン入りを果たす。
重賞初挑戦は中京の中日新聞杯。結果はもうお分かり。3番人気で6着。「信長のお膝元に行って勝てるわけないでしょう」。NHK「歴史探偵」であれば、所長の佐藤二朗が思わずそう漏らすところだ。
尾張の地からほうほうの体で逃げ帰る(想像)と、“準地元”東京の白富士Sを快勝して立て直した。そして、次なるターゲットを新潟大賞典に絞るのである。
これは見事な選択だった。やっぱり信玄といえば、上杉謙信との死闘を外すわけにはいかない。越後遠征は歴史との符号を考えても最も適切な策である。
レースは5番人気。だが、直線では知将が乗り移ったかのようなクレバーなさばきを見せる。中団からイン4頭目付近で我慢。やがて進路を確保すると、瞬時にギアを上げて、残り250メートルで先頭。後続を3馬身振り切って初重賞制覇のゴール。「討ち取ったり~」という声が聞こえてくるような見事な越後制圧だった。
シンゲンは続くエプソムCも制覇。東京では負けられないというプライドをしっかりと示し、いよいよ天下取りに乗り出す。だが、天皇賞・秋は09年5着、10年6着、11年11着。天下に高らかと号令する野望はかなわぬまま、14年、越後での大敗(新潟大賞典12着)を最後に引退するのである。
戦国武将と競馬というのは、もの凄く相性がいい。ここまでノリノリで執筆して改めて感じた。しかもシンゲンは武田信玄をなぞるような戦績を残してくれた。甲斐駒特別を勝つなんて本当に奇跡のようだ。
今も「マサムネ」「ケンシンコウ」「ヨドギミ」、そして戦国の頂点に立った武将から名をもらった「イエヤス」といった馬が存在する。ぜひ、頑張ってもらいたい。原稿執筆時点でイエヤスは5戦全敗、掲示板にも載れていない状態だが、ここからの出世をじっくりと待ちたい。「鳴くまで待とう」の心境である。