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2025年06月08日 (日)
安田記念

 5月5日、千葉県富里市の新木戸大銀杏公園で、社台ファーム創業者・吉田善哉氏と、同ファームでけい養されていた大種牡馬ノーザンテーストの等身大像の除幕式が行われた。

 式典には吉田善哉氏の長男である吉田照哉氏(社台ファーム代表)をはじめとして、騎手時代にバブルガムフェロー(96年天皇賞・秋)などの同ファーム生産馬に騎乗して活躍した蛯名正義調教師、富里市の五十嵐博文市長らが祝辞を述べた。

88年、サッカーボーイの動きをチェックする吉田善哉氏(右)。左は小野幸治師©スポーツニッポン新聞社

 筆者が競馬に興味を持ち始めた40年前は富里の地にも牧場が多く残っていた。大学時代には友人に車を出してもらって、馬をのんびりと眺めたものだ。さすがに生産をする牧場は北海道ほどは多くなかったが、放牧中の現役馬はそれなりにいたと記憶する。東牧場でユーセイフェアリー(92年阪神牝馬特別)を見たように思うのだが、今となっては確認する手段がない。

 そんなことを考えながらJRAで古い「優駿」を眺めていると、「馬産地行脚記」という記事が目に飛び込んできた。

 筆者が手にしたのは1941年(昭16)発行の「優駿」創刊第2号。「馬産地行脚記」は創刊号でも特集されており、その第2弾だった。第1弾では三里塚にあった宮内省の下総牧場を特集していた。

 第2弾は民間牧場の紹介だった。のちにシンボリルドルフで一時代を築く新堀(シンボリ)牧場、先に紹介した東牧場に続いて取り上げられていたのが「社臺(台)牧場出張所」。まさに新木戸大銀杏公園の地にかつてあった、社台グループ創業の地のことだ。

 あまりに興味深いので、現代風の言葉にしながら要所を引用したい。

 「富里村七栄(ななえ)に社臺牧場の出張所がある。ここを宰領しているのは吉田善助氏の令息・善哉氏。二十歳そこそこの青年で言うことはなかなか活気にあふれている」

 「社臺牧場では生産は北海道でやるが、二歳の秋からはここへ持ってきて、育成調教をやるのだという」

 「北海道では石が多いため、二歳の秋から蹄鉄を打たなければならないが、ここでは一切その必要がなく、十分に運動させることができる」

 「北海道は冬が長く、自然、調教が遅れる」

 このインタビュー時、牧場にいた22頭は全てサラブレッド。しかも父は全て「ステーツマン」だと善哉氏は胸を張った。

 ステーツマンとは善哉氏の父、善助氏が、それまでの牛に代わり、馬の牧場を白老に造るにあたって、米国、欧州を約70日間、旅をして視察した際、英国で買い付けた種牡馬。善哉氏にとっても自慢の種牡馬とみえて、このような善哉氏の言葉がルポの中に見受けられる。「(サラブレッドは)全部で22頭います。サラブレッドの多い点では日本一です。(ステーツマンの種付け料は)一千円です。これも日本一でしょう」

 筆者は生前の吉田善哉氏と会話をすることはかなわなかったが、はっきりした物言いの豪快な人物というイメージだ。日本競馬をけん引した偉大なる巨人が青年期、胸を張って取材に答えた様子が目に浮かぶ。ステーツマンの種付け料はトウルヌソル、ダイオライト、シアンモアなど当時の一流種牡馬の倍額だったそうだ。

 ステーツマンはダービー馬を出すことはできなかったが、牝馬レダが1953年(昭28)の天皇賞・春を制した。牝馬による春の天皇賞制覇は後にも先にも、この一度だけ。優秀な種牡馬であったことは間違いない。

 ルポは最後をこうまとめている。「父を同じくする馬ばかり二十二頭が一カ所にまとまっている様子は、たしかに壮観ということができる」。ノーザンテースト、サンデーサイレンスという、時代を変える種牡馬を手に入れ、そこに全てを賭けて成功、拡大した社台グループ。その策の元祖は草創期におけるステーツマンにあったのだと知ることができた。

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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