今週は北九州記念。小倉の重賞といえば、ある程度以上の年季が入ったファンなら真っ先に思い出すのはメイショウカイドウである。
武豊騎手とのコンビで“小倉3冠”。宝塚記念をメイショウタバルが逃げ切った時、“メイショウ”の勝負服で喜ぶ武豊騎手を見て、筆者が真っ先に思い出したのはメイショウサムソンではなく、メイショウカイドウであった。

武豊騎手と石橋師の感動物語に水を差すわけではないが、「メイショウ」+「武豊」=「小倉」という強烈なイメージが筆者の頭の中にはすり込まれているようだ。
その小倉3冠制覇の中でも完勝と思えたのが05年北九州記念。2着ツルマルヨカニセに2馬身差をつけての差し切りだった。
04年小倉記念、05年小倉大賞典を制し、“リーチ”をかけて臨んだ一戦。1枠1番から互角のスタートを切ると、武豊騎手は馬を5番手のインに収めた。
行きたくなりそうな雰囲気も少しあるが、武豊騎手がうまくなだめていた。それまで折り合いに難のあったメイショウカイドウ。しかし、競走馬人生のハイライトであるこの一戦で、抜群の人馬一体ぶりを披露した。
さすがと思えたのが3コーナー過ぎ。先団のラップが一気に上がった。だが、ここでメイショウカイドウは無理についていかない。あくまで自分のラップを守り、コーナーワークで前との距離を詰めていった。
4角ではスムーズに外に出して進路を確保。そこからは持ち前の鬼脚全開だ。残り150メートルで先頭に立つ。あっという間に後続を突き放し、完勝のフィニッシュだった。
馬体重が前走からマイナス20キロ(512キロ)と発表された時は競馬場がどよめいたが、坂口正大調教師(引退)にとっては、全てが計算通りだった。
「栗東でのここ3週がずっと538キロ。夏場に小倉に輸送すると、この馬は22キロ減る。520キロは切ると思っていました」。前年の小倉記念を制した時が514キロ。夏場に最も走りやすい体重へと持ってきたのだ。「この馬のためにも記録に残ることをしたかった」。馬への愛情に満ちた、入魂の仕上げだった。
小倉競馬を盛り上げたメイショウカイドウは引退後、小倉競馬場の誘導馬となった。引退後の暮らしを自ら切り開いたのだから立派というしかない。
そして、筆者が強調しておきたいのが競馬場を飛び出してのイベントにも複数回、参加したことである。

写真は17年7月27日。博多駅前広場で開催されたイベントでのもの。武豊騎手も参加してトークショーが行われ、「小倉は馬とお客さんとの距離が近い競馬場。皆さん、ぜひ家族で競馬場へいらしてください」とジョッキー自らアピールした。
素晴らしい。地元競馬場の絶対的ヒーローが、わが街の駅前に現れたら、誰もが興奮するだろう。サラブレッドは近くで見ると、うっとりするほど美しい。こういう機会はなかなかなく、競馬ファンを増やしたことは容易に想像できる。
野暮なことをいえば、危険を心配する関係者もいたはずで、そこでおとなしくして、期待に応えたメイショウカイドウは本当に凄いと思う。
アーモンドアイやイクイノックスのような完全無欠ホースもいいが、メイショウカイドウのような個性派も競馬を盛り上げる上で欠かせない。この夏も、そのような個性派が出てきてくれないかと期待している。