今週、早くも函館開催は今年ラスト。恒例の函館2歳Sが行われる。函館2歳Sといえば思い出すのが08年フィフスペトルだ。三浦皇成騎手が新人年に初重賞制覇を決めた一戦と言った方が分かりやすいかもしれない。
今見てもホレボレする騎乗ぶりだ。デビュー戦は2番手追走から早めに抜け出して勝利を手にした三浦騎手とフィフスペトルだったが、この一戦は互角のスタートを切ってもサッと下げた。

14頭立て(1頭除外)の13番手。小回り函館で位置取り的にはどうかと思ったが、2ハロン目に10秒3を刻む、なかなか速い流れ。実はここが“正解”の位置取りだった。新人でありながら、デビュー戦とは全く異なる位置で運び、そこで慌てず運べるところが凄い。
4角では馬場の四分どころへ。混雑することがミエミエのインを避け、それでも大外には持ち出さず、スムーズに力を出し切れるギリギリの場所で直線を迎えた。進路の選択も絶妙だった。
三浦騎手の右ムチに応えて伸びるフィフスペトル。手前(軸脚)を何度も替えるなど、デビュー2戦目の若駒らしさを見せるのだが、しっかりと誘導。ナムラミーティアをかわしてグッと前に出た。「三浦皇成フィフスペトル!」の実況とともに左腕を上げてガッツポーズ。そして相棒の首筋をポンと叩いた。
「デビュー前から調教に乗せてもらい、じっくりためていけば、切れる脚を使うことは分かっていた。3角で自分からハミを取ってくれることも知っていた」。序盤で後方に位置しても慌てなかった理由をこう明かしたが、それでもここまで冷静にはなかなか運べない。この時、18歳7カ月23日。重賞制覇としては当時、歴代5番目の年少記録となった。
「たまげたね」。文字通り、目を丸くしたのはフィフスペトルを管理する加藤征弘調教師だった。「コーナーで外を回さず、じっとしていたのがよかった。1200メートルは短いと思っていたが、よくこなしてくれた」
レース前、多少の緊張の色を見せながら、三浦騎手が相談に来たという。「どう乗りましょうか」。師はこう言って背中を叩いた。「細かいことは気にするな。500万のレースと思って思い切って乗ってこい」。この言葉で迷いが消えたと三浦騎手は振り返った。
この時の8週間の函館滞在で三浦騎手は18勝を積み重ねた。レースでの存在感はもちろんだが、目立っていたのは平日朝の調教時だ。とにかく最初から最後まで馬に乗りまくっていた。
そして、人なつっこい笑顔で厩舎スタッフと何度もあいさつをかわしていた。「あんな爽やかな新人に最高のあいさつをされたら、オレの馬にも乗せたいなあって思っちゃうよね」。関西の厩舎のスタッフが、そう話していた。普段はなじみのない栗東の関係者の心もグッとつかんでいた。
函館全日程を終え、三浦騎手はこう総括した。「最後の週に最高の結果を出せたことがうれしいですね。一流の先輩方に囲まれて、いろいろ技術を盗みたいと思っていたので」。爽やかな笑顔に似つかわしくない「盗む」という言葉に野心を感じ、ゾクッと来たことを今も覚えている。