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 今週は京都できさらぎ賞。例によって、当欄のネタ探しにと過去の優勝馬をチェックしていたところ、目に飛び込んで離れない馬名が。97年優勝馬ヒコーキグモである。

 皆さんはこの馬名の由来をご存じか?「飛行機雲のことだろう」。いやいや、それだけでは足りない。この馬の父は「キーン」。キーン!と青空を突き抜ける飛行機(イメージはブルーインパルス)が作り出す、白く真っすぐな飛行機雲。これである。

97年きさらぎ賞を制したヒコーキグモ(左)。迫るのは2着テイエムトップダン©スポーツニッポン新聞社

 懐かしくなり、当時の弊紙をチェックする。小田切有一オーナーの、馬名の由来に関するコメントが結構、長めに掲載されていた。

 「子供の頃、よく見た飛行機雲に対する郷愁の気持ちと、真っすぐ伸びてほしいという思いで命名しました。また、父の馬名にもかけています。最近の若い人は(飛行機雲に対する)印象が薄いと思うので、この馬が活躍して、子供が“お父さん、ヒコーキグモって何?”と言ってもらえれば最高」

 そうか。「キーン」だけが由来なのではなく、小田切オーナーが子供の頃に見た原風景に深く関わっていたのだ。

 ヒコーキグモだけではない。小田切オーナーといえば珍馬名の宝庫。弊社には“小田切ホース”の単勝馬券を買い集める達人がおり、自分も競馬場に詰めていた頃は、せっせと「オモシロイ」や「オマワリサン」の単勝馬券を買い、達人に渡したものである。

 小田切有一氏の所有馬は簡単に検索しただけでも576頭が見つかった。面白いところをピックアップしたい。

 まずはヒコーキグモと同じ“郷愁系”。98年ユニコーンステークス2着の「ロバノパンヤ」。ロバに馬車を引かせた移動式パン屋のことである。筆者は残念ながら見たことがないが、今、丸の内に現れたら大評判となるだろう。「トンボツリ」「ドングリ」「メダカハドコヘ」。その名もズバリ「ボウキョウノネン」という馬もいた。

 “地球、人生、あらゆるものに感謝系”も多い。「スバラシイキョウ」「ウチュウノキセキ」「ウツクシイニホンニ」「イイコトバカリ」「シアワセノヒビ」「タイセツナチキュウ」「ジンセイハオマツリ」。まるで歌謡曲のタイトルのようである。感謝の念を抱いて生きているからこそ、小田切氏は日本屈指の馬主へと上り詰めたのだと思わざるを得ない。

 かと思えば“恋愛系”も多い。「タッチシタイ」「アイヲトドケマス」「スキスキレンパツ」「スグスキシッパイ」「ゴメン」「サヨウナラ」「トツゼンノサヨナラ」「ウソデショ」「ワスレナイデ」「コイハオヤスミ」。馬名の羅列だけでミニ恋愛小説ができてしまう。小田切氏の人間らしさ、愛らしさが見えてくるようだ。

 ちなみに「シツレン」という馬もいた。自分が馬に生まれて、馬名が「失恋」だったら少し嫌かなあ。

 馬名は2~9文字と決まっているが、“2文字馬名”が多いのも小田切氏の馬の特徴だ。「アメ(飴)」「ウソ」「タコ(凧)」「トビ(飛び)」「ナゾ」「ペン」「ホラ」「マジ」「モチ」「ロロ」「ワオ」「ワナ」。最も有名なのは「モチが伸びた」の実況が一世を風靡した「モチ」だろうか。

 筆者が最も好きな小田切氏の馬名は「マズイマズイウマイ」。いろいろな状況が想像できる。たとえば…小田切氏がある寿司店を訪れた。まずは中トロ、まずい。カンパチは…まずい。この店、失敗か?大将、ウニをくれ。「ウマイ!」。まるでコントだ。

 繰り返すが筆者の100%想像である。だが、たった9文字の馬名から、こんな想像ができてしまうのが面白い。これが“小田切馬名”の奥深さである。

鈴木正 (Tadashi Suzuki)

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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