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2025年07月31日 (木)

「残したい日本の音風景100選・チャグチャグ馬コ」

投稿日:

(岩手県 盛岡市・滝沢市毎年6月第2土曜日

農民が愛馬を大切に思う気持ちから生まれたお祭り

“チャグチャグ”と鳴り響く鈴の音とともに、南部盛岡の街なかを馬コが練り歩く「チャグチャグ馬コ」は、華やかな装束を着飾った農用馬が、滝沢市の鬼越蒼前神社から盛岡市の盛岡八幡宮までの約14kmの道のりを行進する岩手県の伝統行事です。もともと旧暦の5月5日に行われていましたが、農繁期と重なるため昭和33年には新暦の6月15日とされました。 2001年からは、より多くの馬が参加でき多くの人が観覧できるようにと6月の第2土曜日に開催されることになりました。

馬1頭につき引きこ2人、付き添い1人、乗るのは子供1人と決まっています。色とりどりの装束をまとったおよそ60頭の農用馬が、盛岡市に隣接する滝沢市の鬼越蒼前神社から9つのスポットを経由します。

岩手県は、古くから馬産地として知られています。16世紀後半に馬耕の技術が入ってくると、馬を家族の一員として大切にする気持ちから、人と馬が一つ屋根の下で暮らすこの地域独特の形をした民家「南部曲り家」が生まれました。

このように培われてきた愛馬精神より、「馬」にちなんだ端午の節句(5月5日)には、農繁期中唯一の休息日として、仕事をせず農耕に疲れた愛馬を癒やし、無病息災を祈ることを目的に、馬の守り神である 「蒼前神社」や「駒形神社」へお参りするようになりました。それが慣行化され「お蒼前参り」として定着していきました。このお蒼前参りの際に、小荷駄装束(こにだしょうぞく)を着せた馬を引くのが流行し、チャグチャグ馬コの原型が芽生えたと言われています。

1930年に馬好きで知られる秩父宮殿下がご来県された際に、滝沢市の鬼越蒼前神社(おにこしそうぜんじんじゃ) 参詣後、列を成して盛岡八幡宮の神前馬場で馬ぞろいをお見せしたところ大変な評判となったため、翌年からもお参りの後に盛岡八幡宮まで行進し、開催するのが恒例となりました。

現在では約60頭ほどの馬が、鬼越蒼前神社から盛岡八幡宮まで14キロの道のりを約5時間かけて行進します。このような形式の祭りは世界的にもほとんど例がなく、1978年に文化庁から記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財に選択されました。

またチャグチャグ馬コの名称は、馬が着ている煌びやかな装束についている大小700個の鈴の音が「チャグチャグ」と鳴ることが起源となっていますが、その鈴の音が1996年に環境庁(当時)の「残したい日本の音風景100選」にも選出されました。

行列は9つのスポットを経由して、14kmの道のりを5時間かけて進行します

①鬼越蒼前神社

鬼越蒼前神社は、岩手県滝沢市鵜飼外久保にある神社です。神事のチャグチャグ馬コの参拝神社であり、行列の事始めの聖地として知られています。

②滝沢市役所前

レンガの外壁の滝沢市役所前を行進します。向かいにあるビッグルーフ滝沢では馬コとのふれあい、ポスター展、滝沢駒踊りなどの郷土芸能が披露されます。

③青山町・盛岡ふれあい覆馬場

盛岡ふれあい覆馬場(おおいばば)プラザはレンガの建物で明治時代、荒天時に屋内調教用の兵馬の訓練場として建築されました。

④夕顔瀬橋・旭橋

北上川と岩手山をバックに橋を渡る行進を見ることができます。爽やかな風の音や、流れゆく川のせせらぎを感じながら行進を楽しめます。

⑤材木町商店街

材木町のメインストリートである、全長430メートルの商店街の中を行進し休憩地点にもなっています。この通りは宮沢賢治ゆかりの地です。

⑥盛岡駅・開運橋

盛岡駅の滝の広場での休憩の後、盛岡駅と盛岡の街中を繋ぐ白く美しいアーチ橋「開運橋」をチャグチャグ馬コが行進します。

⑦大通り・櫻山神社

盛岡中心部の商店街である大通りを通過し、美しい石垣を右手に見ながら、盛岡城址公園内にある櫻山神社前へと行進を進めます。

⑧中津川・中の橋

小京都とも言われる美しい盛岡の街中を流れる中津川。きらめく川のほとりでチャグチャグ馬コが休憩をします。

⑨盛岡八幡宮

約5時間、約14kmの道のりを行進した壮大な行列は終点である県下一の大社、盛岡八幡宮へ向かいます。

鬼越蒼前神社

岩手県滝沢市鵜飼外久保100-3

アクセス
車◉東北縦貫自動車道 盛岡I.Cから県道盛岡環状線を北へ約15分
東北自動車道 滝沢中央スマートI.Cから約10分
電車◉東北新幹線 盛岡駅下車 タクシーで約25分
バス◉JR盛岡駅から岩手県交通ビッグルーフ滝沢行『終点ビッグルーフ滝沢下車』徒歩約20分

鬼越蒼前神社の起源

岩手県は、古くから馬産地として知られています。江戸時代以前は、主として軍馬や騎馬として使われていましたが、寛政年間(1789年頃)から農耕用として農民が家族同様の愛情を注いで飼うようになり、人と馬がひとつ屋根の下で暮らす南部曲り家が造られました。こうした愛馬精神から自然に生まれたのが馬の神をまつる「駒形(蒼前)神社」です。「鬼古里」の地名は、鬼越蒼前神社の西方約2kmの地点にある峠で、この峠に至る坂道の一帯を「鬼越」と呼び、なだらかな傾斜を持つ丘陵地が広がっています。鬼越蒼前神社(旧駒形神社)は以前に、この「鬼古里」あるいは「鬼越」にあって蒼前神社と呼ばれていたのが、明治末に火災に遭ったのを機会に現在地に移され、再建されたといわれてます。

盛岡八幡宮

岩手県盛岡市八幡町13-1

アクセス
車◉東北道盛岡南ICから国道4号経由5km約15分
バス◉JR盛岡駅から茶畑行き約20分『八幡宮下車』

盛岡八幡宮の起源

盛岡八幡宮は今から300年以上昔の延宝8年(1680年)、第二十九代南部重信公により建立されました。盛岡八幡宮に祀られている神は、品陀和気命(ほんだわけのみこと・第十五代応神天皇)で、農業、工業、商業、学問、衣食住など人間生活の根源の神として、昔から地域の人々の多大なる崇敬を集めてきました。明治17年(1884年)の盛岡大火などの災害や永年の風雪被害を受けて社殿は再建がくり返され、現在の社殿は平成9年12月に新八幡宮として建て直されました。色あざやかな彫刻の施された朱塗りの大社殿が、新しい「盛岡の顔」として堂々たる風格を漂わせています。県下一の大社として、また人々の生活に根ざした信仰や祝い事の拠りどころとして、現在も年間を通して多くの参拝者で賑わっています。

取材後記…チャグチャグ馬コの装飾である鈴の数は1頭あたり700個と言われています。装束の作り方は家々で異なり代々受け継がれたものです。装束の配色はそれぞれの家で趣向が凝らされ、昔ながらに一つ一つ長い月日をかけて丹精込めて作られます。 チャグチャグ馬コは手作りの祭りでもあります。 文/邦馬

取材協力・写真提供

チャグチャグ馬コ保存会事務局
『チャグチャグ馬コ公式サイト』
https://chaguuma.com/
019-613-8391

滝沢市役所 経済産業部 観光物産課
https://www.city.takizawa.iwate.jp
019-684-2111

一般社団法人 滝沢市観光物産協会
『滝沢わくわくNavi』
https://takizawa-kankou.jp
019-601-6327

盛岡八幡宮
https://morioka8man.jp/
019-652-5211

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