ここに寄稿させていただくようになって3ヶ月近くになるが、そろそろ色々な個々の馬や人(ホースマン)の話もさせていただこうと思う。
もちろん馬を書くとなると、僕の担当してきた馬達が中心になり、人は僕に近しい親交ある人達の話が多くなるのはご了承いただきたい。
それらを話す前に少し話をしておきたい事がある。
前厩舎時代担当馬がGレースによく出走していた頃、何度もメディアに取材を受けたが「僕みたいな取り柄もないごく普通の人が、こんな華やかな舞台に立てるのも、先生、オーナー、牧場、騎手や助手などの乗り手のおかげです。感謝しかありません。僕は運だけでここにいます。」といった受け答えをよくしていた。
これはええ格好しての謙遜ではない。心の底から出た本心だ。
僕達は調教助手と違い、調教に乗ってるわけでもなく、その馬が生まれてから2歳になるまでの、馴致(じゅんち)からの長い時間を共にしたわけでもない。
昭和の時代はややこしい新馬もかなりいたが、今はまずいない。生産牧場から育成牧場と、しっかり馴致が行き届いた馬がほとんどだ。
新馬が厩舎に初めて入厩した時は、もうほとんど出来上がっており、僕達はその馬の能力を邪魔しないよう心がけるだけなのだ。
厩務員は4つの運をクリアしなければ大(G)レースに勝つ事は出来ない。
①厩舎配属の運……
当然確率の問題で、成績上位厩舎と下位厩舎では馬の質が全く違ってくる。良い厩舎に入るには牧場や縁故の力もあるが、人員空きのタイミングなどの運もかなりある。
②能力の高い馬を担当できるかの運……
たとえ上位厩舎に入れたとしても、能力の高い馬に巡り合う為の厩舎内での競争や運がある。
③調教過程での運……
いくら能力の高い馬を担当できても、その能力に見合わない乗り手が調教すると駄馬になってしまうし、怪我や疾病などで能力を発揮できない馬もいる。
④そして騎手を含めたレースでの運……
やはり大きなレースともなれば上手い騎手に乗ってもらい、枠順やレース展開に不利がなく得意な馬場状態になる、そんな色々な運が重ならないと勝つ事はできない。
厩務員というのは、そんないくつもの幸運をクリアしていき、やっと栄光を掴めるのだ!
同じ厩務員が違う担当馬で複数回GⅠレースに勝ったりしていると「腕利きとか名厩務員」と書かれるが、これは①②がもう省かれて、③と④だけで勝負しているからで、腕などではなく、勝ち組の連鎖とでも言うべきだろう。
その厩舎のシステムがしっかりしていれば、厩務員は皆だいたい同じ仕事ができて、各人の技量は馬の成績と全く関係ない。
僕のような学歴も馬術歴も縁故もない普通の人が、いかにして強運を掴み、GⅠレースに勝つ馬を担当できるようになっていったか……
その話は次回からの馬シリーズで!