UMATO

2025年08月08日 (金)

 コパノアントニオ、愛称トニ男。
 この馬との付き合いは新馬からではなく、それほど長くはない。
 でも強烈な個性と可愛さで、今まで担当した牡馬の中でも、かなり好きな馬となった。

トニ男ことコパノアントニオ。(2025年5月上旬)

 そして、このトニ男が僕の厩務員生活最後のレースを飾ることになったのだ。

 トニ男は2024年の春頃から担当し、前々回の「二人の騎乗」でも書いたが、昨年3月末に故藤岡康太騎手が騎乗してくれた。
 その時に「この馬、物凄いビビりで、砂被っても音でも怖がるのでメンコ付けたほうがええかも?」という助言をもらった。

2024年3月中京競馬場、故藤岡康太騎手騎乗のコパノアントニオ。写真提供 応援に来てくれた友人

 康太の助言を受けて、昨年夏の函館でメンコを付けて好タイムで勝利をあげたトニ男。
 その函館でのエピソードを「トニ男の青春」で書かせてもらったが、好評だったので今回第2弾をお送りする。

2024年6月函館競馬場、高杉吏麒騎手騎乗で勝利したコパノアントニオ。写真提供 応援に来てくれた友人

 題して「トニ男の青春~セカンド~」。
 青春セカンドと聞いて、松山千春が浮かぶ人は60歳を過ぎていると思われる。

 5月上旬、半年ぶりに栗東に戻ってきたトニ男。
 相変わらずの牝馬好きで、運動中はかなり遠くの牝馬を見ても、「ブホホッ」と鳴きだす。
 洗い場では、あえて牝馬の前には入れないようにしているが、斜め前の牝馬を見てずっと興奮している。

洗い場で、斜め前の牝馬をロックオンするトニ男。ずっと見ていて、どんどん興奮してくる。

 そして、今回の栗東の厩舎状況は前回までとは一変していた。
 昨年トニ男が栗東に居た時は、裏の厩舎が解散していて馬がいなかったのだ。
 それが今年の3月から新規調教師が仮住まいとして入厩し(今年の秋まで)、馬が入ってきた。
 時を同じくして暑い日が続き、馬房の裏の窓を開ける日が多くなってきた。

 函館のように馬房の窓の外を見たらすぐ洗い場で、馬のお尻があるということはないが、朝の調教時は輪乗りをするので、間近で馬が見れる。

朝の調教時間、裏の厩舎で輪乗りが始まると、トニ男はここを離れなくなる。

 この状況を見逃すトニ男ではなかった。
 毎日、裏の厩舎の馬が調教に行く前の輪乗りが始まると、微動だにせずずっと見ている。
 トニ男のウォッチングタイムは、輪乗りが終わり馬たちが厩舎から出ていくまで続く。

裏の馬が目の前を通る。牝馬だけ目で追うトニ男。

 僕がもし馬語がしゃべれたら、トニ男が絶望する話を2つしなければならない。

 一つは、裏の厩舎は秋にはもう引っ越していなくなるということ。また馬がいない時期がしばらく続く。

 もう一つは、昨年行った函館や札幌の滞在競馬は、僕はもう行かないしもうメンバーが決まっているので、トニ男が行くことはなさそうということ。
 あの北海道の馬房の真後ろで、牝馬のお尻を間近に見ることは多分できないだろう。

後ろに馬がいなくなると、またこうしたふて寝が増えるトニ男。

 トニ男は、喜怒哀楽の表情豊かで、どれだけ遊んでも飽きない可愛い馬だ。

かつて隣にいた馬が、人参をもらう時にしていたポーズを真似して自分のものにしたトニ男。これをやられると人参をやらずにいられない。

 そんなトニ男が、6/1(日)京都競馬場9Rを走ることが早いうちに決まった。
 その日は僕の厩務員としての最後の仕事の日でもある。

 この楽しくもおもろいトニ男と、厩務員人生最後の戦いに挑む。

田中一征 (Kazuyuki Tanaka)

1960年大阪府泉大津市生まれ
JRA栗東トレーニングセンター梅田智之厩舎厩務員
元伊藤雄二厩舎でワコーチカコ、エアグルーヴ、ファインモーションなどを担当。今年で43年目となり7月に定年退職予定。

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