コパノアントニオ、愛称トニ男。
この馬との付き合いは新馬からではなく、それほど長くはない。
でも強烈な個性と可愛さで、今まで担当した牡馬の中でも、かなり好きな馬となった。

そして、このトニ男が僕の厩務員生活最後のレースを飾ることになったのだ。
トニ男は2024年の春頃から担当し、前々回の「二人の騎乗」でも書いたが、昨年3月末に故藤岡康太騎手が騎乗してくれた。
その時に「この馬、物凄いビビりで、砂被っても音でも怖がるのでメンコ付けたほうがええかも?」という助言をもらった。

康太の助言を受けて、昨年夏の函館でメンコを付けて好タイムで勝利をあげたトニ男。
その函館でのエピソードを「トニ男の青春」で書かせてもらったが、好評だったので今回第2弾をお送りする。

題して「トニ男の青春~セカンド~」。
青春セカンドと聞いて、松山千春が浮かぶ人は60歳を過ぎていると思われる。
5月上旬、半年ぶりに栗東に戻ってきたトニ男。
相変わらずの牝馬好きで、運動中はかなり遠くの牝馬を見ても、「ブホホッ」と鳴きだす。
洗い場では、あえて牝馬の前には入れないようにしているが、斜め前の牝馬を見てずっと興奮している。

そして、今回の栗東の厩舎状況は前回までとは一変していた。
昨年トニ男が栗東に居た時は、裏の厩舎が解散していて馬がいなかったのだ。
それが今年の3月から新規調教師が仮住まいとして入厩し(今年の秋まで)、馬が入ってきた。
時を同じくして暑い日が続き、馬房の裏の窓を開ける日が多くなってきた。
函館のように馬房の窓の外を見たらすぐ洗い場で、馬のお尻があるということはないが、朝の調教時は輪乗りをするので、間近で馬が見れる。

この状況を見逃すトニ男ではなかった。
毎日、裏の厩舎の馬が調教に行く前の輪乗りが始まると、微動だにせずずっと見ている。
トニ男のウォッチングタイムは、輪乗りが終わり馬たちが厩舎から出ていくまで続く。

僕がもし馬語がしゃべれたら、トニ男が絶望する話を2つしなければならない。
一つは、裏の厩舎は秋にはもう引っ越していなくなるということ。また馬がいない時期がしばらく続く。
もう一つは、昨年行った函館や札幌の滞在競馬は、僕はもう行かないしもうメンバーが決まっているので、トニ男が行くことはなさそうということ。
あの北海道の馬房の真後ろで、牝馬のお尻を間近に見ることは多分できないだろう。

トニ男は、喜怒哀楽の表情豊かで、どれだけ遊んでも飽きない可愛い馬だ。

そんなトニ男が、6/1(日)京都競馬場9Rを走ることが早いうちに決まった。
その日は僕の厩務員としての最後の仕事の日でもある。
この楽しくもおもろいトニ男と、厩務員人生最後の戦いに挑む。