僕にとって函館競馬場は40年間、毎年のように来ていたのにレースの記憶はあまりなく、ほとんどが開催の終わった裏函の思い出だ。
何故かと言うと担当馬が勝っていないから。はっきりと覚えていないが多分、前の伊藤厩舎時代は6~7勝ほど、今の梅田厩舎では、今期まで0勝。札幌競馬場では重賞4勝を含み20勝以上(梅田厩舎でも5勝以上)はしているので、えらい違いだ。
函館の勝利数が少ないのは基本、裏開催ばかり行っていたので、単純に担当馬のレース数が少ないからだが、相性もあまり良く無かったかもしれない。
そんな鬼門ともいえる函館競馬場だったのだが、現役厩務員としては今年最後となる出張の開幕週、担当馬が2頭とも勝利を達成!
土日1頭ずつ勝利や、違う競馬場で同日2勝はかつてあったが、同じ競馬場での1日2勝は、僕の長い厩務員人生で初めての事だった。競馬の神様が最後の函館という事で餞別をくれたのだろう。
ローカル競馬場の厩舎エリアは建物こそ新しくなったが、レイアウトは全く同じで馬が運動するところも昭和の時代と変わらない。
競馬場のスタンド方面から南側一帯は関東厩舎エリアで、僕達は競馬や調教の時はこの辺りを、馬を連れて装鞍所や馬場へ向かう。
装鞍所は数年前までとても狭く窮屈だったのだが、痛ましい人身事故が起こったのを受けて、とても広くリニューアルされた。
昔とは全く別物の装鞍所だが、1本の巨大な木(種類は不明)は昔と同じ場所に鎮座している。この木とは40年来の友人という感覚になり、今年でお別れと思うと何か感慨深い。
馬が運動する場所は各ブロックごとに別れているが、乗り運動をする人達はメインストリートを中心に大きく回ったりもしている。
北海道の出張先は、栗東所属馬と美浦所属馬が、ほぼ半々に集まるので、関西と関東に別れた競馬学校の同期などと久しぶりに再開したりする。開催の最初の頃は馬の運動中「おお来てたんか?また飯でも行こう!」と言った言葉があちらこちらで飛び交う。
今の若者の馬運動中の会話は最新の馬の話がメインで、僕ら古い人間にも勉強になるような、ためになる仕事の話が多い。昭和の時代の函館では「どこどこの店の女の子が可愛い」や「あのパチンコ屋、今度凄いイベントあるで」とか下衆な話がほとんどだった。
それはそれで楽しかったのだが、もちろん今のほうが正しいのはいうまでもない。
40年間見続けてきた調教スタンドから見る函館山の景色も見納めとなった2024年8月、久しぶりに台風が近づいてきた。ふと函館山を見ると笠雲がかかっていた。
20年ほど前だったと思うが同じく台風接近の時、凄く幻想的な立派な笠雲が函館山にかかった。その時私が詠んだお気に入りの一句で、この函館競馬場シリーズを終えたい。
野明け前 笠で身守る臥牛山(野明け=台風 がぎゅうざん=函館山の別名)