騎手の卵、いわゆる競馬学校生徒の騎手候補生は、業界用語で「あんちゃん」という。
調べると「あんこ」とも言われると書いてあるが、今は担当がコロコロ変わる「あんこ馬」という意味でしか使わない。厩舎関係者はほぼ「あんちゃん」で統一していると思う。
「あんちゃん」の語源は諸説あってよくわからない。
でも先輩おっちゃん厩務員などが、10代半ばの可愛い子を「あんちゃん!」と呼んだのが広まったのだろうと思う。
少し前に寄稿した「ありがとう豊!さよなら中山!」の第2回で、梅田厩舎所属で2026年3月デビュー予定の藤田悠輔君のことを書かせてもらった。
その「あんちゃん」藤田君の事を書かせていただく前に、もう1人の人物を紹介したい。
千田輝彦調教師。
伊藤雄二厩舎所属でデビューした元騎手であり、僕が唯一厩舎をともにした同僚の「あんちゃん」だ。

彼と初めて会ったのは、1986年だと思う。
騎手候補生の競馬学校2年生として、僕が働いていた伊藤雄二厩舎にやってきた。
千田という名前から、厩舎の面々や騎手仲間から「チー坊」と呼ばれるようになった。
多分それは1970年代のテレビドラマ「パパと呼ばないで」で、主演の石立鉄男が杉田かおる(役名 千春)を「チー坊」と呼んでいて、それがちょっとしたブームだったから付けられたのだと思う。
僕の、チー坊のあんちゃん時代と騎手時代の思い出と言えば…
あんちゃん時代、マチカネコイノボリをめっちゃ可愛がってくれたこと。
騎手時代、平日の午後の仕事終わりに、琵琶湖へブラックバス釣りに出かけたこと。


騎手時代、センターグレイバー(愛称 レゲエ)で勝ったこと。


騎手時代、エアグルーヴの2歳時、一番うるさくて大変だった時の調教をしてくれたこと。
などがあるが、チー坊は優しくて楽しい記憶しかなくて、馬にも人にも怒ったり怒鳴ったりしてる所を見たことがない。
調教師になってからも、ブラック的な悪い噂は聞いたことがなく、フレンドリーな素晴らしい厩舎運営をしていると思う。
5/30(金)、東京競馬場に出張で出かける直前、千田厩舎の前を通りかかったので、思わず立ち寄ったら、ちょうど厩舎の調教が終わり、千田調教師が帰ってきた所だった。
「チー坊、今週で定年退職なんやわ。色々ありがとう!」と言うと、「おおっ、田中さん定年退職なんですか!それはそれは、お疲れ様でした!」と返ってきた。
髪の色は白くなったが、昔と変わらない優しい笑顔で応対してくれたチー坊。
記念写真を撮った後、「最近厩舎調子ええね…頑張ってや!」「頑張ります!」のやりとりをして、千田厩舎を後にした。

まだ調教師として15年ほどあるが、これからは1ファンとして千田厩舎を超絶応援していきたい。