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2024年12月07日 (日)

写真:JRA提供

 大井競馬が「競走馬トラッキングシステム」を導入した。6月5日の東京ダービー当日から始まり、おおむね好評のようだ。開催日のメインと最終の2競走を対象に運用していくとのことで、競馬ファンにとって朗報といっていいだろう。

 「競走馬トラッキングシステム」とは、出走馬のゼッケンにGPSセンサーを装着。レース映像に競走馬の位置取りやスピードなどを表示して可視化するもの。JRAは先駆けて23年4月から運用しており、グリーンチャンネルでの中継などで、すでにおなじみだ。

 ネットの反応を見ると「映像の邪魔」「特に必要ない」という声もあるのだが、筆者は大いに参考にして楽しんでいる。

 まず、単純な速さ比べが面白い。「61・1キロ」などの時速が表示されるのだが、この数字を追うだけでも相当に楽しめる。

 今年のダービーで、筆者の楽しみ方を追ってみよう。

 スタンド前からスタート。1コーナーまでの間に「時速68・7キロ」をマークした。しかし、そこから馬群は急激に減速し、1コーナーを曲がる時には「59・3キロ付近」まで落ち、向正面に入った時には「55・3キロ」あたりで落ち着いた。

 車を運転する人は分かるだろうが、68キロと55キロは当然ながら全く違う速さだ。「適度なスピードで体力を温存している」感じが数字からも分かる。

 以前、ある騎手から「レースにおいて最も気を遣うのは1コーナーだ。どの馬も元気で、スピードが出ている状態でカーブに突っ込むから、どの騎手も最大限の注意を払って騎乗する」と聞いたことがある。そのことが数字ではっきりと示されている。

 もちろん、ラップを追っていけば、そのことは頭の中では分かる。だが、こうしてバシッと数字で出ると、「ほう」と腑に落ちる。

 スローで進んだダービーだが、3コーナー付近。外から上昇したサンライズアースが先頭のエコロヴァルツに並びかけたあたりから急激にスピードが上がり「64・1キロ」を計時した。

 エコロヴァルツの岩田康誠騎手が、そろそろスピードを上げようと考えた可能性もあるが、自分はサンライズアースがかけた圧力によって、自然と馬群全体のスピードが上がったのだろうと自分は理解した。いずれにしても、ここはレースにおけるポイントの1つとなったに違いない。4角を回る時は64・5キロ。スピードを落とすことなく馬群は3~4コーナーを回った。

 直線を向く。66・4キロまでスピードを上げて逃げ込みを図るエコロヴァルツだが、シュガークンにつかまる。この時が65キロ付近。そこから63・8キロへと落ちたところでインからダノンデサイルにかわされた。

 64・3キロ付近で粘るダノンデサイル。なだらかに速度は落ち、最後は61キロ台となったが、ジャスティンミラノも疲れているとみえて脚色が同じになった。恐らく62キロ台後半の脚で追い上げたであろうシンエンペラーは3着まで。ダノンデサイルが2馬身差で粘り抜いた。

 68・7キロで始まり、61キロでフィニッシュしたダービー。実は1コーナーよりゴール前の方がスピードは出ていないのだが、それでもサラブレッドが懸命に踏ん張る姿がレースを熱くさせるのだ、そこに厳密なスピードは関係ないのだ、とも思える。いずれにしても、ダービーで最後の1完歩まで力を出し切ってファンを楽しませてくれた17頭の優駿。お疲れ様でした。

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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