7月いっぱいまでJRA所属だった小牧太騎手が8月14日に園田競馬で再デビュー。復帰初日に白星を挙げるなど、見事なリスタートを決めた。
生まれは鹿児島の小牧騎手。顔つきも何やらゴツく、一見おっかない人という印象を持つ人もいるだろうが、全くそんなことはない。言葉遣いは丁寧で、優しく受け答えしてくれる。
GⅠで有力馬がスタンバイしていた週、トレセン内を自転車で走る小牧騎手を遠くから呼び止めると、サッと止まって質問に応じてくれた。「スミマセン、急いで帰るところだったのに」と最後にわびると「何も何も。質問に答えることも仕事だからね。気にしないで」と返してくれた。その日はデスクから「何が何でも小牧でアタマ(の記事を)作るぞ」と指示されていた日。ホッと胸をなで下ろすと同時に小牧騎手の優しさに心から感謝した。
小牧騎手が初めてJRAのGⅠを制したのは2008年桜花賞、馬は12番人気のレジネッタだった。当時、筆者は浅見秀一厩舎に足繁く通っており、同馬担当の藤原和也助手とも親しくさせていただいていたが、2番手グループの1頭という見方しかできなかった。自分の見る目のなさがホトホト嫌になったことを今でも思い出す。
その翌日のこと。桜花賞を取材し、栗東に戻った筆者。月曜朝、恒例の「優勝馬、全休日取材」を済ませると、半日の休みに入った。向かったのはトレセン近くのスーパー銭湯だ。
この銭湯に行くのは、筆者はほぼ月曜なのだが時折、小牧騎手の姿を見かけた。サウナで汗取りでもしているのだろう。休日のリラックスタイムに記者から話しかけられるのも嫌だろうと思い、声を掛けることは控えていた。小牧騎手の存在に気付いている人もいないようで、いつも一人の時間を楽しんでいるように見えた。
だが、念願のGⅠを制した翌日だ。今日は小牧騎手に「おめでとうございます」と言っても、バチは当たらないだろうと思いながら銭湯に到着した。湯船につかっていると前日のヒーローが現れた。すると…。
周囲のオジサンたちが「昨日はおめでとう」「良かったよ」と小牧騎手を祝福し始めたではないか。あの常連のオジサンたち、小牧騎手の存在に気付いていたのか。知っていて、小牧騎手のリラックスタイムを邪魔しないでいたのか…。何だか、銭湯のメンバーの一体感(?)がうれしくなった。
皆さんご存じの通り、小牧騎手はJRA騎手としての最終騎乗となった7月21日の小倉12Rを12番人気モズアカボスで勝ち、騎手仲間に胴上げされた。免許的には翌週の27、28日も乗れたのだが、騎乗依頼を受けることはなかった。「引っ越しがあるからね」と説明したが、小牧騎手のことだ。あいさつ回りに忙しかったのではないか。もしかしたら、あの銭湯にも足を運んだのかもしれない。記者が所属する新聞社にも8月5日に顔を出してくれた。本当に気持ちの細やかな方だ。
「所属となったからには園田に日本一の競馬場になってもらいたいんです」。何と素晴らしい意気込み。読者の中で関西圏にお住まいの方は、ぜひ兵庫県競馬に一度、足をお運びになってほしい。そして小牧騎手に声援を送ってもらいたい。