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2024年10月31日 (金)

 今週は東京と京都で4重賞。個人的にファンタジーSは好きなレースの1つだ。

 最も印象深いのは04年優勝馬ラインクラフト。新馬戦を5馬身差つけて快勝して、ここに臨んだ。ラインクラフトは2番人気だったが、その強さは桁違いだった。

 4角3番手で直線を向くと、残り200mでもう先頭。後続を容赦なく突き放した。福永祐一騎手(現調教師)は最後、手綱を緩めてゴールした。

05年桜花賞を制したラインクラフト©スポーツニッポン新聞社

 この走りを見て、桜花賞まで負けることはないと予感した。阪神ジュベナイルフィリーズはショウナンパントル、アンブロワーズの関東馬2頭の前に3着に敗れたが、年明けのフィリーズレビューも快勝。いよいよ桜花賞に臨んだ。

 と、その前に桜花賞前には伝えられなかった話がある。ラインクラフトはフィリーズレビューを勝った後、いつまでもトモの疲れが取れなかった。連日スロー調整。竹邑行生厩務員は連日、ひたすら筋肉をほぐす治療を続けた。「毎日、治療ばかり。これでは桜花賞を使えないと思ったことも一度や二度ではない」

 それでも容赦なく迫る桜花賞。陣営は一つの決断に出る。1週前追いで速いところをやる。それで変化がないなら諦める。リスクも大きいが…やるしかない。

 まさに一か八か。最大のギャンブルにラインクラフトが応えた。スムーズな動きを見せ、そこからベクトルが上向いた。「ここが桜花賞に出走できるか、回避かの瀬戸際だった。本当によく頑張ってくれた」(同厩務員)。

 迎えた桜花賞。1番人気はデビュー3連勝のシーザリオに譲ったが、ラインクラフトは素晴らしい馬体をパドックで誇示した。天気は快晴。スタート地点の向こう側の桜は満開だった。

 8枠17番からのスタートだったが5番手で流れに乗った。4角4番手で直線を向く。手前を替えるとエンジンが一気に噴き上がった。早め先頭から粘るデアリングハートを残り100mで捉えた。懸命に追い上げるシーザリオを頭差、退けた。1週前追いの前まで回避の可能性のあった馬が、見事に白星をつかんだ。

 脱鞍所へと引き揚げてくる福永祐一騎手の喜びようといったらなかった。左腕を大きく突き上げ、「やっちゃったよ!凄い馬だよ!」。竹邑行生厩務員はボロボロと泣いていた。瀬戸口勉調教師も目を赤くしていた。

 表彰式を見届けた後、ラインクラフトの馬房を訪ねた。竹邑行生厩務員はうまそうに一服していた。最高の一服ですか?と聞くと「ずっと吸っていなかったんだ。やっと吸えたよ。そんな余裕ずっとなかったんだ」。強豪を担当する厩務員が抱える連日の緊張感が伝わってきた。

 「桜花賞に出られるだけでうれしかったんだ。まさか勝つなんて。勝って引き揚げてきたこの馬の姿が信じられないし、今、自分が阪神競馬場にいることが不思議で仕方ない」。あの1週前追いまで、コンディション的には回避すべきレベルだったのではないか。そう思えて仕方なかった。

 その後、牡馬相手にNHKマイルCも快勝。しかし06年8月、ラインクラフトは放牧先で突然倒れ、急性心不全で急死した。同期シーザリオが次々と名馬を出すのを見るたび、ラインクラフトが早世したことが本当に惜しまれた。

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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