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2025年09月18日 (木)

 今週の阪神メインはGⅡ・阪神大賞典。筆者にとっては年間を通しても屈指の、楽しみなレースの1つだ。ある意味、GⅠよりもワクワクする一戦かもしれない。

 理由はこう。「明け4歳の中長距離戦線における最強馬候補が、そのベールを脱ぐ一戦」だからだ。うーむ、伝わっているだろうか。代表例を出そう。

13年阪神大賞典を制したゴールドシップ。内田博幸騎手の右ムチがうなった©スポーツニッポン新聞社

 たとえば91年メジロマックイーン。前年の菊花賞でホワイトストーン、メジロライアンを撃破して1冠奪取。菊花賞・有馬記念を制したメジロデュレンの半弟という血統からも、さらなる成長が期待できた。しかも、今回から武豊騎手が騎乗するという。そして追い切りでは破格の動きを連発していた。

 この年の阪神大賞典は阪神改装中につき、中京で行われたが、ふたを開けてみれば驚きの単勝1.2倍。武豊・メジロマックイーンはスムーズに流れに乗って直線で突き抜け、2着ゴーサインに1馬身4分の1差をつけて快勝。「これからはメジロマックイーンの時代だ」とファンに確信させた。

 続く天皇賞・春は筆者に言わせれば「勝つべくして勝った」一戦であり、戦前のワクワク感でいえば、「明け4歳のメジロマックイーンはどれだけ強くなっているのだろう」と心躍らせた阪神大賞典の方が上だった。

 たとえば95年ナリタブライアン。この馬はメジロマックイーンとは違い、菊花賞優勝後に有馬記念も制していた。ということで「どう見ても勝つだろう」感は大きかったのだが、4歳春を迎えての成長がどのくらいあったのかを確認する意味で、ワクワクした一戦だった。

 この年は京都で行われた阪神大賞典。4角2番手から直線で後続をちぎり捨て、つけもつけたり7馬身差。しかも最後は流していた。「うおー、やっぱ強えー」と思わず声が出た一戦。その後、右股関節炎を発症して不振に陥っただけに、絶頂期のナリタブライアンの走りを最後にお披露目したレースという意味で、価値のある阪神大賞典だった。

 そして、たとえば13年ゴールドシップ。こちらも前年の菊花賞優勝後、有馬記念も制しており、ナリタブライアンと同様、強さの保証はあった馬だが、阪神大賞典前のワクワク感は相当なものがあった。

 後方からジリジリと位置を上げて、最終4角では3番手の外。直線を迎えて先頭に立つと、内田博幸騎手の左ムチ、そして右ムチに応え、2着デスペラードに2馬身差をつけて快勝した。

 前年の有馬記念では出遅れた末に直線で大外から豪快に差し切っており、体への負担が大きそうだな、と感じていた。それだけに阪神大賞典での余裕のある勝ち方は、体への消耗を減らすという意味でも成長を感じたし、ここからさらに飛躍できると思わせた。これまたゴールドシップにとって価値のある阪神大賞典だった。

 どうだろう、筆者が思う阪神大賞典の面白さ。冒頭に挙げたメジロマックイーンの優勝(91年)以降、34年間で5番人気以下はたった2勝(05年マイソールサウンド=6番人気、10年トウカイトリック=5番人気)という、とにかく堅いレースなのだが“ワクワク感”でいえばGⅠに匹敵するGⅡ戦なのだ。

 今年はどんな阪神大賞典になるだろうか。この原稿を書きながら、どんどんテンションが上がってきた。

鈴木正 (Tadashi Suzuki)

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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