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2025年03月31日 (月)

 前回、第1回NHKマイルCがいかに凄いレースだったのかを書いたが、“第1回”でもう1つ凄いレースがあるので、ここに書き記しておきたい。G1に昇格した新装第1回(記録上は第26回)の96年高松宮杯(現高松宮記念)である。

 中京競馬場悲願の新装G1。しかも3冠馬ナリタブライアンが参戦するというサプライズも起こり、中京競馬場には早朝からファンが殺到。7万4201人が来場し、ハイセイコーが出走(1着)した74年高松宮杯(6万8469人)を大きく上回る、入場レコードをマークした。

 レースもスタートからゴールまで全く目が離せない、衝撃の一戦だった。

 拍手、歓声とともにゲートが開く。押してスリーコースが飛ばす。悠々と2番手を追走する3番人気フラワーパーク。2ハロン目のラップは10秒3。3ハロン通過は33秒1。当時とすれば、なかなかのペースだろう。だが、フラワーパークは悠々と流れに乗り、3~4角中間で手応えを残しつつ先頭に立つ。

96年高松宮杯(現高松宮記念)を制したフラワーパーク。鞍上は田原成貴騎手©スポーツニッポン新聞社

 外から1番人気ヒシアケボノが迫るが、手応えがいいのはフラワーパークの方。ヒシアケボノを突き放し、追い上げたビコーペガサスも2馬身半差封じ切り、フラワーパークが完勝した。勝ちタイム1分7秒4は当時のコースレコードを0秒5も更新する破格の時計。全馬がゴールした後も、どよめきはしばらくやまなかった。

 筆者は“いいもの”を2つ見た、と思えた。まずはフラワーパークの強さである。

 前述の通りの快勝だった。そして、この勝利はデビューからわずか204日目、9戦目での古馬G1制覇だった。この高松宮杯は5月19日に行われたが、この年の最初のレースでは準オープンの石清水Sに出走し、しかも3着に負けていた。それが4カ月後にG1を勝ってしまうのだから、競走馬は面白い、と思えた。

 松元省一師によれば、デビュー前に2度も骨折し、このまま繁殖入りさせる話もあったという。そこで「もう一度やりましょう」と馬主・牧場サイドを説得したのが同師。経験馬相手の未勝利戦出走(10着)から始め、ついに頂点へと到達した。競馬には、こんなミラクルが時々起こる。

 もう1つの“いいもの”はナリタブライアンだ。レース前、「これだけの馬を1200m戦に出すのか」とブーイングが起きた。結果は4着。「やっぱり負けた」「言わんこっちゃない」という声があちこちから上がった。SNS時代の今なら、とんでもないことになっていただろう。

 だが、筆者の目にナリタブライアンは相当に奮闘したように映った。未経験の激流とあって、10番手付近となかなかついていけなかったことは仕方ない。それでも直線ではイン2頭目から馬群を割って押し上げた。勝ったフラワーパークは遠かったが、2、3着馬には十分に迫ってみせた。

 ナリタブライアン級の馬が電撃の6ハロンに出走することは、めったにない。だから、前走で天皇賞・春2着の馬が、実に2000mの距離短縮でどんな競馬ができるのか、それを実際に見せてくれた意義は大きかった。

 さらには中京競馬場に多くのファンを呼び込み、新装G1を大いに盛り上げてみせた。レコードとなるほどの客を呼び、レースで見せ場をつくった。ナリタブライアンは素晴らしい仕事をしたのだ。

 勝ったフラワーパークには申し訳ないが、あの一戦で、もしナリタブライアンが勝っていたら、どうなっていたか。それはもう究極の伝説となっていただろう。

 だが、それも出走しなければ始まらない。だからチャレンジは心が躍る。チャレンジこそ競馬の魅力なのだ。今後も競馬において未知への挑戦があったら、そこでブーイングするのではなく、素直にワクワクしたい。筆者はそう思う。

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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