ダノンデサイルが5日(日本時間6日)に行われたドバイシーマクラシック(GI、メイダン芝2400メートル)を快勝した。
担当するのは、当コラム第2回で紹介した原口政也厩務員。中東の地のウイナーズサークルで堂々と担当馬と口取りに収まるのを見て胸が熱くなった。競馬で海外に行くのは初めてではなかったか。いきなり、これだけの大仕事をやってのけるのだから、やはり、彼は何かを持っている。
そして、ダノンデサイルが勝つたびに、当コラム「原口厩務員」の回が「人気の記事」の上位に上がってくるのも、うれしいものだ。

今週はタイミング良く皐月賞なので、原口厩務員にとって初GI制覇となった99年のこのレースを振り返ってみたい。馬はもちろんテイエムオペラオーである。
オッズ的には2強だった。1番人気(単勝2.7倍)はラジオたんぱ杯3歳S勝ちのアドマイヤベガ。2冠の名牝ベガの子という血統面からも注目が大きかった。
2番人気(単勝3.3倍)は弥生賞でアドマイヤベガを下したナリタトップロード。きさらぎ賞から重賞連勝と勢いに乗っていた。
この上位人気2頭と5番人気テイエムオペラオーが4角手前で中団の外に並んだ。しびれるシーンだった。テイエムオペラオーの和田竜二騎手は当時、21歳9カ月の若さだったが、ここで大胆な策に出る。「アドマイヤベガが外に出ようとしている。出させたら勝たれてしまう。出しちゃいけない」。必死でアドマイヤベガの進路をカバーしたが、逆にはじき飛ばされた。だが、これが良かった。「テイエムオペラオーの闘志に火がついたんです」(和田竜)
本当の勝負は急坂を迎えてからだった。先に抜け出していたオースミブライトを急追するナリタトップロード。さらに外から、どの馬よりも大きな完歩で迫る馬がいた。テイエムオペラオー。ゴール前、最後の1完歩でオースミブライトをかわし、混戦に断を下した。
未勝利戦、ゆきやなぎ賞、毎日杯に続き、4連勝での戴冠。3連勝で臨んだのにテイエムオペラオーは5番人気に過ぎなかった。なぜだろう。
テイエムオペラオーの市場取引価格の安さは、その遠因かもしれない。北海道10月市場でセリ落とされた価格は、わずか1000万円。きらめくような血統のアドマイヤベガと比較してしまうと、どうしても見劣りする。また、毎日杯優勝馬が当時、皐月賞で好成績を残せていなかったことも大きい。
レース後、関西馬の出張馬房に向かうと、原口厩務員(当時は調教厩務員)がテイエムオペラオーの手入れをしていた。おめでとうと声をかけると「ありがとうございます。勝っちゃいましたね。初めて担当した馬でクラシックを勝つなんて、あっていいんですかね」。そうだった。前年にトレセン入りした原口氏。新馬から担当した初めての馬がテイエムオペラオー。それが、いきなり皐月賞を勝つとは…。
「原口君の頑張りが馬に伝わっているんだよ。ダービー週もまたよろしく!」。そんな声をかけて出張馬房を離れたように記憶するが、テイエムオペラオーがあれほど強い馬になるとは、この時、原口氏も自分も全く想像していなかった。