UMATO

2025年10月05日 (日)
毎日王冠 / 京都大賞典

 今回の当コラムは肩の力を抜いて読んでいただきたい。

 さて、89年安田記念前に「人気薄だけどバンブーメモリーが勝つんじゃない?」と友人に吹聴していた若き筆者。なぜ、こんなことを言っていたか。この年の4月に川崎市高津区の竹やぶから約1億4500万円が入ったバッグが見つかったからである。

 タケノコを取りに来た近所の住民が発見したとのこと。その後に追加(?)で9000万円も見つかり、連日、ニュースではトップで扱われた。

 つまり…、文字にするのも恥ずかしいが、「竹やぶからお宝」→「バンブーでお宝」という発想である(汗)。

 あの騒動は本当に凄かった。当時はバブル華やかなりし頃。「竹やぶからお宝が見つかるまでになったか」「まだ見つかるかもしれない」ということで、竹やぶは見物人でごった返した。当時を振り返る記事の中に「見物人目当ての屋台まで出た」とあった。

 出所のよからぬお金ということは間違いなさそうだが、当時は大騒ぎだった。それにしても今、首都圏随一の通勤路線である東急田園都市線沿線で、タケノコが獲れる竹やぶなどあるのだろうか。時代を感じさせる事件だ。

 それはさておき。「竹やぶ」「バンブー」という至極単純な連想で安田記念を予想した筆者。直線でバンブーメモリーが突き抜けた時の心の衝撃は凄かった。

 「友人に推奨したけど、まさか来るわけないよな」と思っていた馬がグイグイと脚を伸ばしてくる。鼓動がMAXに早まっているのが自分でも分かった。これだ!この衝撃!筆者が競馬にグッと心をつかまれた瞬間だった。

 人生で最も重要なことはワクワクすることではないか。日常では味わえない高揚感。それが競馬にはあると実感した。この時に筆者は競馬を一生の趣味とすることを決めた。まさか、職業とするとは、この時はまだ思っていなかったが。

 そんな、筆者の人生を変えた安田記念だったが、当時のスポニチをひっくり返して驚いた。競馬面のトップは安田記念の結果ではなかった。

 「武豊に一日町長“お願い”~愛知県武豊(たけとよ)町がラブコール…近く町長が競馬会に正式申し入れ」

 他紙にはないニュース記事である。他紙との差別化に成功しており、これはこれでナイスな紙面。当時の武豊ブームがいかに凄かったかを改めて知ることができる、競馬史の中でも重要な意味を持つ紙面かもしれない。

89年10月2日、武豊町で一日町長を務めた武豊騎手が武豊駅前で花束を受け取る©スポーツニッポン新聞社

 武豊騎手はこの5カ月後の10月2日、本当に武豊町の一日町長の大役を果たすことになる。そして今年3月、この一日町長の日に埋めたタイムカプセルを掘り起こすイベントが行われ、武豊騎手も招待された。

 「当時、パレードでオープンカーに乗ったことが印象深く、いい思い出です。名字や名前が一緒なのはよくありますが、私はフルネームが同じ。凄く縁を感じます」。スーパージョッキーが壇上で語りかけると、武豊町の皆さんが大きな拍手を送った。

 竹やぶ、バンブーメモリー、武邦彦師、武豊騎手、武豊町…。「タケ」にまつわる、いい思い出。筆者の脳内からもタイムカプセルが掘り起こされた気分だった。

鈴木正 (Tadashi Suzuki)

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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