今週は新潟でレパードS。09年が第1回という比較的歴史の浅いレースだが、ダートの出世レースとして、すっかり定着した。
昨年はミッキーファイトが優勝。同馬はその後、フェブラリーS3着を経て、7月に帝王賞を快勝した。今後も中距離ダート戦線をけん引していくことは間違いない。ということで、昨年もレパードSはハイレベルなレースだった。

そして、レパードSが夏の重要な一戦として定着することを予感させた、そして決定づけたのは第1回の覇者があまりに偉大だったからに、ほかならない。トランセンドである。
まだグレードは付かず、格付けなしの「重賞」。それでも3歳世代の強豪が集まった。スーニ、シルクメビウス、ワンダーアキュート、グロリアスノア。古馬となっても活躍を続けた砂の猛者たちが、世代のトップを目指して越後に大集合。だが、トランセンドはそんな未来のスターたちを一蹴した。
前走・麒麟山特別をレコード(1分49秒5=当時、やや重)で制したトランセンドが単勝1.7倍の1番人気。以下、シルクメビウス、スーニと続いた。
互角のスタートを切ったトランセンド。1枠からアドバンスウェイがスピードに乗って先手を奪うと、松岡正海騎手はトランセンドを促し、2番手につけた。序盤のこの判断が快勝の最大の要因だった。
「アドバンスウェイは前走で騎乗して、しぶといと分かっていたので、しっかりついていった」(松岡)。瀬波温泉特別。8番人気アドバンスウェイに騎乗した松岡騎手は果敢に逃げの手を打ち、4馬身差の快勝。走破タイム(1分49秒5=重)もかなり優秀。その強さを肌で感じていたからこその作戦だった。
4角でも馬なりのアドバンスウェイ。だが、トランセンドも2番手で余裕のある手応えだった。「追い出すタイミングを待つ余裕がありましたね」(松岡)
ちらりと後方を確認した松岡騎手。タイミングを見定めて追い出し、アドバンスウェイをかわした。スーニ、スタッドジェルランも懸命に追うが、トランセンドとの差は詰まらない。3馬身差の完勝。タイムは1分49秒5。前走でトランセンド自身がマークしたレコードと同タイムを刻んでいた。しかも、前回がやや重馬場だったのに対し、今回は乾いた良馬場。新設のレパードSは第1回から破格のタイムでの決着となった。
「体が全体的に柔らかく背中の感触もいい。これは能力が高いですね」。松岡騎手は、のちの大活躍を予感させるコメントを出した。
安田隆行調教師も「残り300メートルで勝利を確信しました。あとは“よしよし”と思って見ていましたよ。期待以上の勝ち方です」と笑顔で話した。ゴール後、前田幸治オーナーが間髪入れず、調教師にこう話しかけてきたという。「パスポート持ってるか?」。世代限定の格なし重賞を勝ったばかりで、この力強い言葉。さすがは名オーナーの慧眼と言わざるを得ない。
オーナーの読み通り、トランセンドは2年後、11年3月に海を渡り、ドバイワールドC2着と奮闘する。勝ったのはヴィクトワールピサ。東日本大震災直後の一戦での日本調教馬ワンツーは、本当に日本を勇気づけた。価値ある2着だった。
国内でもジャパンCダート連覇(10、11年)、フェブラリーS、マイルチャンピオンシップ南部杯優勝と無双の活躍を見せたトランセンド。レパードSが確固たる格を維持しているのも、この第1回覇者の大活躍があったからこそだろう。