前回の当欄で藤沢和雄調教師によるタイキシャトルのジャックルマロワ賞Vについて書いた。今週はキーンランドカップ。17年、藤沢和雄厩舎によるエポワスのVも忘れられない一戦だった。
当時9歳だったエポワス。「今週はおじいちゃんと頑張りますよー」なんてルメール騎手が軽口を叩いていたから全くその気がないのかと思ったら、どうしてどうして。はるか下の世代を一刀両断にした決め手には驚かされた。
当時の弊紙によれば、9歳馬による平地重賞制覇は10歳でマークした2頭(08年小倉大賞典=アサカディフィート、12年ステイヤーズS=トウカイトリック)に次ぐ高齢記録とのこと。13頭立ての12番人気。ゴールの瞬間、札幌競馬場があっけにとられた。

ただ、今思えば、ちょっとにおう穴馬だったことは確かだった。
キーンランドカップは3年連続での出走。前2年は9、6着だったが、9着の時は前が全く空かなかった。
前哨戦、同じ芝1200メートルのUHB賞は前2年が1、2着。この年のUHB賞は調子が戻り切っておらず7着に終わった。その前の函館スプリントSは3着。前走で高松宮記念を制しているセイウンコウセイ(4着)に先着しており、健在ぶりをアピールしていた。
9歳という年齢の割には衰えておらず、展開などの後押しがあれば連に絡んで不思議ない感じはあった。
中間は放牧に出さず、藤沢和雄調教師は手元に置いて調整。最終追いは札幌の芝コースに入れ、6ハロンからビシッと動かした。指揮官は「いい動きだった。ここまでは非常に順調」と目を細めた。
レース当日、馬体重の発表を見て驚いた人もいたはずだ。エポワスはUHB賞と比較して20キロ増での出走となった。
ここで「ん?」と思える人が大万馬券を手にすることができるのだろう。芝コースであれだけ動いたのに20キロ増。UHB賞が8キロ減だったが、それを考慮しても増えている。
体重を見て馬をつくることは藤沢和雄師に関してはありえない。あくまで馬のコンディションを見ながら適切に負荷をかけ、その結果の馬体増なら全く問題ないのだ。この馬体重を見て、買いに回った人もいるだろう。残念ながら筆者はそうではなかったが…。
序盤は最後方にいたエポワス。だが、残り3ハロン付近から位置を上げ、直線では外に回すことなく馬群へ。ベテランホースは気後れすることなくネロとライトフェアリーの間を割り、勢い良くすり抜けて先頭へ。9歳馬はデビューから6年4カ月、29戦目でついに重賞タイトルを手にした。
「状態が良かったし、少し自信がありました。ただ、相手も強力だからね。3着か4着くらいかと思っていました。おじいちゃんと勝てて、凄くうれしいですね」。ルメール騎手は再度、おじいちゃんという言葉を使ってエポワスを称えた。
藤沢和雄師はエポワスに対して、お年寄り的なことは言わなかった。「年は取っているけど、数(レース)を使っていないからね。まだまだ若いし、まだまだやる気に満ちていますよ」。“常識”にとらわれない藤沢哲学に改めてため息が出た。