11月30日に行われたジャパンカップ。05年アルカセット以来、20年ぶりに外国馬(カランダガン)が制し、しかも18年アーモンドアイのタイムを更新する2分20秒3という衝撃のレコード決着となった。いったんは前に出たマスカレードボールを差し返すという離れ業。ファンに与えたインパクトは大きく、さまざまな称賛の声がネットに上がり、筆者も興味深く読んだ。
この名勝負を見て、筆者が思い出したのは89年ジャパンカップである。

先に抜け出したニュージーランドの牝馬、9番人気のホーリックスを日本のオグリキャップ(2番人気=1番人気はスーパークリーク)が猛追。首差まで迫ったところがゴールだった。
勝ちタイムの2分22秒2は当時としては驚異的なレコード。芦毛2頭の歴史的な叩き合い、前週のマイルチャンピオンシップ(1着)から連闘で参戦したオグリキャップにも惜しみない拍手が送られた。
筆者は、この一戦を見て、競馬を一生、見続けることを心に誓った。まさか、一生の仕事とするとは想像していなかったが、心に深く刺さった一戦となった。
今年のジャパンカップを見て、何かを決意した若い方がいたなら、ぜひ、その気持ちを大事にしてほしい。
カランダガン優勝の最大のポイントは、マスカレードボール、つまりルメール騎手を徹底マークしたバルザローナ騎手の作戦にあったのではないかと考える。
パトロールビデオを見てほしい。今や同ビデオはJRAのホームページから簡単に見ることができる。
スタート後、バルザローナ騎手は何度も外を見て、馬の動きをチェックしている。外の馬が、どう内側に切り込んでくるのかを見ているのだが、同時にマスカレードボール(ルメール)が、どの位置で競馬をするかを見定めていたことは間違いない。
「ルメールの馬についていけば先頭に近づくと思っていた」(バルザローナ)
カランダガンとマスカレードボールの距離が詰まると、バルザローナはシュトルーヴェ、ヨーホーレイクに馬体を寄せる形になっても、マスカレードボールの“番手”を主張した。そして首尾よく、背後に収まるのである。勝利の大前提となる準備が完璧に整った瞬間だった。
道中もマスカレードボールにけん引される形でぴたりと折り合ったカランダガン。ルメール騎手の番手につけるメリットはいくつもある。
ペースが遅ければルメールは上がっていくだろう。自分もそれについていけばいい。ペースが速ければルメールは自分のペースを守るだろうから、それに従えばいい。つまり、ペース判断を任せることができるのである。自分はカランダガンとのコンタクトに集中するだけ。人馬とも道中でスタミナを削らずに済む。
また、超一流騎手のルメールが道中で妙な動きをすることは決してない。勝負どころで早々と下がることもマスカレードボールなら、ほぼないので、安心してスパートのポイントまで背後にいられるのだ。
残り800メートル。ルメールはちらりと背後に目をやる。ダノンデサイルとカランダガンが見えた。しかもカランダガンの手応えがいい。嫌だなあ、と思ったはずだ。
直線を向く。バルザローナがうまいのは、その直後だ。カランダガンを促し、マスカレードボールの横につけた。前にシンエンペラーがいて、さばきが少々、窮屈になったマスカレードボール。この隙を突き、頭ほどカランダガンがマスカレードボールの前に出た。
やや狭くなったマスカレードボール。それでもグッと勢いをつけてスペースを割るわけだが、この“グッと勢いをつけた”時に脚もスタミナも使った。これをバルザローナは待っていたのではないか。
最後は2頭の叩き合いとなり頭差、カランダガンが先着するのだが、前述の“直線すぐに勢いをつけた”ことが最後の最後、カランダガンが前に出たことにつながった。筆者はそうみる。マスカレードボールの方がわずかに先にスタミナ切れを起こしたのである。
もちろん、未体験の超高速決着に対応して、世界一であることを証明したカランダガン自身が偉大なのだが、しっかりと勝利に結びつけたバルザローナの乗り方も素晴らしかった。非常に分析しがいのあるもので見応えにあふれていた。素晴らしいジャパンカップだった。






