私事で恐縮だが、3月8日はBSイレブンの解説デーだった。第2部のゲストは定年引退したばかりの国枝栄元調教師。長く背負った肩の荷を下ろしたばかりなのにスタジオに駆けつけてくださるフットワークの軽さ。感謝しかない。
国枝さんについては2月11日の当欄でも記したが、番組スタッフから改めて国枝さんとの思い出を聞かれると、以下のようなシーンしか思い浮かばず苦笑した。
寒い朝、トレセン調教スタンドのうどん店。アツアツをすする国枝さんと、テーブルの真向かいで同じくうどんをすすりつつ、師のコメントをノートに書き写す筆者。「そうですか。マツリダゴッホは明日、速いところ行きますか」「そうそう。良くなってるよ」。こんな会話を何度かわしたことか…。

うどんで思い出した。たまには肩肘張らないこんな話はどうだろう。日本で何度も短期免許を取得したオリビエ・ペリエ元騎手。彼も調教スタンドうどん店の常連だった。

ある時、カレーうどんをすすっているところを直撃した。「随分、おいしそうに食べますね」「オー、だって大好きだからね」「フランスにもカレーうどんはあるの?」「あるわけない(苦笑)。日本に来た時の楽しみのひとつだよ。本当にウマイね」
美浦も栗東も、ともに主戦場としたことがあるペリエ。東西とも食べ比べてみて、どうでした?「ウーン、カレーうどんに関しては美浦の方がおいしいね。肉がやわらかくて僕向きなんだ」
そういえば、藤沢和雄厩舎大仲(厩務員控室)の冷蔵庫にはカタカナで「ペリエ」とサインがしてあった。騎手には減量との戦いという側面もある。食べ物へのこだわりは人一倍だったのかもしれない。
かつて美浦の定食屋(なかなかの美味)で遭遇した小島太調教師(引退)の話もしておこう。
そこは店内にテレビが置いてある店。放映中の番組内でオムライスがちらっと映った。
「おお、これはな、絶対にグリル満点星(麻布十番の有名な洋食店)のオムライスだ」
もちろん正解。ふわふわ卵にデミグラスソースをかけた絶品。当時は今のようなグルメ情報サイトがあるわけではなく、メニューの画像も簡単に検索できる環境ではなかった。そんな中でのあっさり正解はさすが。こだわり派の元名騎手の“実力”を見た思いだった。
そこからは小島太師との楽しい“メシトーク”。師は隠れた人知れぬ店を探すのも好きで、一人でどんどん初めてのラーメン店などにも入っていくと教えてくれた。
ただ、苦手なことがあった。小島太さんだと気付いた店主や客からサインを求められることがあった。これが少々つらかった。
「だってさ、そこでラーメンに分厚いチャーシューとかが入っていれば格好もつくわけよ。だけど、ただのラーメンを食べているだけじゃ格好悪くてなあ。フトシ、ただのラーメン食ってたよ、とか言われるんじゃないかってねえ」

それは考え過ぎでしょうと突っ込み、思わず苦笑した。スター騎手には我々には分からない悩みがあるのだと改めて知り、“普通のラーメン”を食べることができる幸せをかみしめた次第である。






