古くはコダマ、シンザン、ハイセイコー。競馬ブーム以降もミホノブルボン、ナリタブライアン、オルフェーヴルと過去の優勝馬として名馬が名を連ねるスプリングステークス。筆者が最も衝撃を受けた勝ち馬を紹介したい。
09年優勝馬アンライバルドである。そして優勝へと導いた岩田康誠騎手。その繊細さと大胆さを併せ持った乗り方に圧倒された。

6枠12番からスタートしたアンライバルド。1000メートル通過62秒6のスローの流れを8番手付近の外で折り合った。
筆者が目を奪われたのは4コーナー手前からのアンライバルドと岩田騎手の動きだ。今、見てもホレボレする。
内側にいたツクバホクトオーに馬ごと体を預けるような滑らかなコーナリング。まるで馬に負担など掛かっていないかのような雰囲気だ。そして、カーブを曲がり終えた瞬間に岩田騎手は手綱を激しく動かして馬を鼓舞した。待ってましたとばかりにアンライバルドは瞬間的に前に出た。
体を起こして左ムチを入れる岩田騎手。だが、その上体は全くブレることなく、トップスピードの馬上でも安定感たっぷり。何という体幹の強さだろうか。
ダイナミックな追いっぷりに応えて四肢を伸ばしたアンライバルドは残り150メートルで先頭。2着レッドスパーダを半馬身振り切った。父ネオユニヴァースは03年のこのレースを制しており、父子2代のスプリングステークス制覇となった。
この騎乗ぶり、勝ちっぷりに衝撃を受けた筆者。早速、懇意にしていた赤木高太郎騎手(引退)と連絡を取った。赤木騎手はJRAに移籍する前の園田所属時代、岩田騎手、小牧太騎手と3人で、高いレベルでしのぎを削っていた。岩田騎手の凄みをよく知る1人だ。

「岩田騎手の4コーナーといえば“ドリフト”ですよ」。赤木騎手は笑って話した。
当時の園田は3人が技術的に突出していた。あるレースで実力が接近した勝ち馬候補が3頭いれば、それは岩田、赤木、小牧が乗ることを意味する。そして3角では自然と3頭が集まり、そこから先はまるで他の馬など目に入らない、3人だけの競馬となるそうだ。
迎える4角。そこは3人の騎手がプライドを懸け、おのおののテクニックをぶつけ合う勝負どころ。インの小牧がギリギリまでラチ沿いを締める。外の岩田はドリフトを仕掛けて鋭角に曲がり、馬にスピードを加える。赤木はその真ん中に堂々と突っ込む、といった具合だった。
それはそれはギリギリの攻防だったという。3人は、ともすれば冷や汗の出るような極限の勝負を楽しみ、技術を磨いていった。当時の園田はとんでもなくハイレベルだったのだ。
「なら、あんなに美しく4コーナーを回るなんてのは岩田騎手にとっては朝飯前なんだね」。そう言うと赤木騎手は同意した。
当稿を書く直前のオーシャンステークス(2月28日)では岩田騎手はペアポルックスを見事にGⅢ制覇へと導いてみせた。美しすぎるイン突きに、これも園田での戦いの末に身につけた名人芸なのだと納得した。






