全国の競馬場やトレセンの厩舎地区で道路を隔てた場所にあったり少し離れた所にある厩舎、いわゆる外厩を競馬関係者はどこも「チロリン」と呼んでいた。
NHKが大昔に放映していた人形劇「チロリン村とくるみの木」から取ったと思われるが、いつ誰がどういう理由で言い始めたかは定かではない。多分、まちから少し離れた所にある「集落=村」という意味合いから付けられたのだろう。
その「チロリン」という言葉だが、札幌競馬場の西厩舎地区に関してはいまだに皆の間で普通に使われている。そんな昔のテレビ番組の存在すら知らない若者が、「うちの厩舎は今年チロリンですわ」とか言っているのを聞くと何か少し嬉しくなる。
JRA競馬場では他に福島や中京も厩舎地区が2つに分かれているが、地下道や競馬場構内を通って行き来する。
でもここ札幌はかなり大きな6車線の道路の上に陸橋を作り、そこを馬が通るという、かなりワイルドな作りだ。この陸橋は二代目で今の橋は「のぞみ橋」という。
西厩舎滞在馬は競馬や調教でこのかなり長く急な坂のある陸橋を渡ることになるのだが、初めて西厩舎に来た馬の中にはこの坂を怖がって途中で動かなくなる馬もいる。そんな馬を人がバックで坂道を押し上げてる姿を今年も見かけた。
僕もこの西厩舎に今まで数回滞在したことがあるが、思い出に残る出来事がある。
前厩舎時代に担当していた真っ黒の馬センタービアン。毛がフサフサしていて長く、性格がもっさりしていたので愛称として「くまどん」と呼んでいた。
そんなくまどん、調教に行く時この橋の一番頂上に来ると必ず止まり天を向いてデカイ声で鳴き叫ぶ。それが毎日のルーティーンだった。
騎乗していた千田輝彦騎手(現調教師)も毎日のくまどんのこの行動を楽しんでいた。
まるで狼の遠吠えのように仲間に「おまえらみんな人間に騙されるなー!」とでも言ってるみたいな…。でも普段のくまどんはとても優しく可愛い馬だった。
この「のぞみ橋」頂上の西厩舎寄りの場所から北西を見ると大倉山ジャンプ競技場が見える。10歳くらいからのスキージャンプオタクの僕は暇があればその一帯に点在している荒井山(ミディアムヒル)、宮の森(ノーマルヒル)、大倉山(ラージヒル)などにバイクでサマージャンプ観戦に出かけた。
そんな景色を楽しみながら、多分もう二度と渡らないであろう「のぞみ橋」をゆっくり歩く。
そこから見える競馬場と札幌の街の情景を深く心に刻み込んだ。
つづく