無敗の三冠馬シンボリルドルフの初年度産駒で、1991年(平成3年)に父子で無敗の二冠に輝いた「帝王」ことトウカイテイオー。
生涯成績12戦9勝、G1勝ちは皐月賞・日本ダービー・ジャパンカップ・有馬記念の4勝。
素晴らしい競走成績もさることながら、この馬の軽やかで弾むようなフットワーク、美しい流星を持つグッドルッキングホースで、記憶にも記録にも残るファンの多い馬であった。
この頃、関西馬の活躍もあって、競馬雑誌の撮影で毎週のように栗東トレーニングセンターへ通って、トウカイテイオーを含め色んな馬を撮影していた。
調教シーンは撮影スタンドや坂路の小屋から撮るが、立ち馬撮影や顔のアップなどの厩舎撮影では調教師に撮影許可を貰い、厩務員さんに撮らせて貰うというスタイルでやっていた。
厩舎周りの引き運動時なども撮影しており、有力馬の厩務員さんとは自然と仲良く話すようになっていった。
トウカイテイオーを担当されていた東(ひがし)厩務員とも、競馬雑誌で人気者のトウカイテイオーを毎号のように撮影していたので親しくさせて貰っていた。
撮影時期は忘れたがある日の事、端の方の厩舎へ行くのにトレーニングセンター内を歩いていたら、プール調教終わりのトウカイテイオーが、プールから出て来た。
特徴的な歩き方と綺麗な流星に「おっ、こんな所でトウカイテイオー発見♪」と、直ぐに東厩務員に「ちょっと撮らせて下さい!」とお願いして、その場で止めて貰った。
そこで初めての出来事が起きたのだ!
当時はフィルムカメラだったので、露出計で明るさを測ってから、カメラのシャッタースピードとレンズの絞りの設定をして、撮影していた。
その一連の動作を大人しくじっと見ていたトウカイテイオーは、横からカメラを構えて2~3枚シャッターを押すと首を動かす、顔の正面に移動して前に回ってカメラを構えるとスッとポーズを取り、2~3枚シャッターを押すと首を動かす、と、こちらの動きを分かっているようで『アンタ、プロカメラマンなんだから、それで十分撮れてるでしょ!』的な対応をされたのだ。
長い間、競走馬を撮っているが後にも先にも馬が自らポーズを取り、撮れたかどうかも分かって撮影を終えるという、信じられないような事がこの時に起きたのだ。
今のデジタルカメラと違いちゃんと撮れたかどうかは、フィルムを現像所に持ち込み、現像してもらってからで無いと仕上がりは分からない状況であったが、現像から上がったフィルムを見ると、こちらが思っていたよりも、想像以上にカッコよくポーズを決めていた。
強く、美しく、賢い、そして、写り方を分かっている、プロのモデルの一面も持ち合わせていたトウカイテイオー!
その後の厩舎での撮影時にも、バッチリとポーズを取っていたトウカイテイオー。
何枚もパチパチ撮るのではなく、1枚バシっと撮ればそれで良い!とトウカイテイオーに教えられた教訓であるが、この時の話はワタシと東厩務員しか知らない、とっておきの話である。