UMATO

2024年12月07日 (日)

 この「UMATO」に寄稿されているみなさんの玉稿を読むと、それぞれの形で競馬と関わりながら、充実した人生を送られているのだと実感する。

 最近、心に残ったのは、岡田修平カメラマンの「ヤエノムテキ」の話だった。栗毛の美しい馬体にホレ込み、ついには大目標とするJRAポスターへの採用もつかんでしまう。そうそう、このサクセスストーリーこそが人生の喜びだよ、と感じた。

 今週はマイルCS。マイルCSで自分にサクセスストーリーはあったか…。そうだ、岡田氏からはだいぶスケールダウンするが、ダイタクヘリオスの話をしたい。

 1991年(平3)の秋、ある大学の法学部大教室。筆者は教科書と六法全書ならぬ、週刊競馬ブックと競馬四季報を机に広げ、授業そっちのけで、その週のマイルCSの予想に没頭していた。前年は10番人気パッシングショットが勝って単勝2270円。この年もいい配当が転がっていそうな予感がしていた。

92年マイルCSを制したダイタクヘリオス。鞍上は岸滋彦©スポーツニッポン新聞社

 授業は「刑事訴訟法」。だが、ひたすらパッシングショットの成績を凝視する。今年、同じパターンで臨戦する馬がいないかを探すのだ。パッシングショットは3走前にGⅡ(当時)のCBC賞を勝ち、直前のスワンSは2着だった。近走でGⅡを勝って実力の高さと調子の良さを証明し、直前のスワンSは惜敗。そして本番を勝った。そういう馬はいないか…。いた。ダイタクヘリオスだった。

 ダイタクヘリオスは91年7月7日、GⅡの高松宮杯(当時)を勝っていた。しかも、このマイルCSで1番人気となりそうなダイイチルビーをハナ差退けてのものだった。さらに直前のスワンSは9着。パッシングショットのような惜敗ではないが、このスワンSは流れも厳しく、先行馬なら許容範囲内の敗戦に思えた。

91年マイルCSを優勝したダイタクヘリオス(左端)©スポーツニッポン新聞社

 うん、ダイタクヘリオスで間違いない。結論を出した筆者は何を思ったか、ノートの切れ端をちぎり、「マイルCSはダイタクヘリオス」と書いて、隣の友人に渡した。友人は「おお、そうか」という表情を見せ、さらに隣の友人に回した。馬名を書いた切れ端はどうやら教室のあちこちへと回りに回ったようだ。紙を受け取り、不思議な顔をしていた女子もいたように記憶する。全くもって若気の至り。幸いにして教授にバレることはなかった。

 迎えたマイルCS。ダイタクヘリオスは強かった。互角のスタートから4番手付近を進むと、坂の上りでポジションを上げ、下りの勢いを使って先頭へ。直線では独特の首の高いフォームで後続を寄せ付けなかった。

 月曜日のキャンパス。友人数人から「ありがとう。また、いい馬がいたら頼むよ」と声をかけられた。当時、学生は馬券を買えなかったので何がありがとうだか、よく分からないが(苦笑)、「どういたしまして」と返事をした。

 だが“いい馬”など、なかなか現れるものではない。しばらくおとなしくしていた筆者だが…そのマイルCSから1年。ついに“いい馬”が現れた。またもダイタクヘリオスだった。

 92年秋はGⅡの毎日王冠を制したダイタクヘリオス。直前はスワンSではなく天皇賞・秋に挑み、8着に敗れていた。勝ったのは豪快に追い込んだレッツゴーターキン。そう、先行馬ダイタクヘリオスにとって全く合わないペースだったのだ。

 今年もいける。「マイルCSはダイタクヘリオス」。大教室でちょうど1年前と同じ“儀式”を行い、友人たちとレースを待った。ダイタクヘリオスは前年のVTRかのように、好位追走から4角で先頭に立ち、後続をねじ伏せた。

 あまりの幸運にちょっと怖くなり、推奨馬を教室で回す行為はこれっきりにした。ちなみに学生の方が、このコラムを読んでいたら授業はちゃんと聞いた方が自分のためです!筆者は刑事訴訟法に自信があり、テストは満点レベルだったので競馬予想にいそしめたのだ(本当)。まあ、今はきれいさっぱり忘れてしまったが…。

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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