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2025年03月31日 (月)

 1996年、記念すべき第1回NHKマイルCを制したタイキフォーチュンが2月21日、けい養先の本桐村田牧場で息を引き取った。32歳だった。存命のGⅠ優勝馬では最高齢だった。

 日本競馬の歴史にさんぜんと輝く1頭だと思う。第1回NHKマイルCは本当にインパクトのある一戦だった。

 当時、クラシックに出走できなかった外国産馬に目標となる大一番を用意しようという意味で新設されたGⅠ。予想通り、出走18頭中14頭が外国産馬。初めて見るビッグイベントという雰囲気が漂い、ゲートが開く前の緊張感は、それは凄かった。

 逃げが身上のバンブーピノが飛ばす。1000m通過は56秒7。観衆がドッと沸く。直線を向き、外から脚を伸ばしたタイキフォーチュン。残り250mで先頭。さらに外からツクバシンフォニーが迫ったが、タイキフォーチュンが4分の3馬身差、踏ん張り切った。

96年NHKマイルCを制したタイキフォーチュン。鞍上は柴田善臣騎手©スポーツニッポン新聞社

 勝ち時計は1分32秒6。当時のレコードは90年の安田記念でオグリキャップがマークした1分32秒4。そこにわずか0秒2差と迫るタイムを3歳春の若駒がマークした。ラップをよく見ると、ラスト2ハロンは12秒0-11秒8とゴールに向けて加速している。あれだけのハイラップをしのぎ、最後に加速ラップを刻むとは何というレースなのだと、ある意味、あぜんとした。そして、外国産馬は8頭までを独占し、その底力を見せつけた。

 柴田善臣騎手は「少し抜け出すのが早いかなと思ったが、よく辛抱してくれた」と馬の勝負根性を称えた。そして「この馬のセールスポイントは普段はボーッとしていてもレースでは一生懸命に頑張るところ。オレとちょっと似ているかな?」と続け、報道陣を笑顔にさせた。

 高橋祥泰(よしやす)調教師もワクワクするような言葉を口にした。「いつか東京2400mを走らせたいね。ダービー馬と対決してみたい」。ちなみに、この年のダービー馬はフサイチコンコルドだった。

 それまでも外国産馬の強さは知られていたが、それを決定的に見せつけたのが、この一戦だった。生産界は危機感を覚えたであろう。今や、日本の血統レベルは世界有数と思われるが、反転攻勢のきっかけとなったのは、この第1回NHKマイルCだった。

 レースとはまた別の話になるが、第1回NHKマイルCに「NHK交響楽団」が来場したことも、なかなかの衝撃だった。東京競馬場にN響が登場したのは、この時が初めてだ。

 今となってはNHKマイルCといえば、という当たり前の光景となったが、当時は「N響って…来てくれるんだ」という素直な感動があった。昼休みにはウイナーズサークルで演奏会。もちろん、ファンファーレもオーケストラが演奏し、馬券オヤジたちも、その美しい音色に思わず聴き入ったのだ(ホントか?)。

 N響によるファンファーレには、NHKマイルCが今後、格式高いレースになっていくことを約束してくれるような、高尚な趣があった。

 そんなエポックメイキングな一戦を制したタイキフォーチュンが32歳まで生き続けてくれたことに感謝したい。あの一戦から日本競馬は確実に変わった。今や、世界のどこに出かけても好勝負を期待できるレベルへと日本競馬が到達したのは、タイキフォーチュンが勝った、あの第1回NHKマイルCがあったからなのだ。

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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