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2025年04月28日 (月)

 今週のメインは大阪杯。GⅠに昇格して今年で9年目を迎えるが、最も印象に残るのが昇格初年度、17年優勝のキタサンブラックだ。

 隙のない勝ちっぷりだった。その強さに驚いた北島三郎オーナーが「こんなに強いなら今年で引退するのはやめますわ」と思わず言ってしまったほどだった(結果的にはこの年をもって引退)。

17年大阪杯を制したキタサンブラック©スポーツニッポン新聞社

 逃げるマルターズアポジーを残り300メートルで捉えて先頭。後続のステファノス、ヤマカツエースも悪くない脚で迫るのだが、キタサンブラックに追いつける雰囲気は全くなかった。後続が来れば、もうひと伸びできる感じを漂わせながら、4分の3馬身差でのフィニッシュ。これがキタサンブラックにとってGⅠ4勝目となった。

 新設GⅠに当時の最強馬が出走し、しかも勝ったという結果は非常に良かった。競馬は格のスポーツであり、キタサンブラックを筆頭に前年のダービー馬マカヒキ、同じく香港ヴァーズ勝ち馬サトノクラウンがエントリーしたことは新生・大阪杯の面目を十分に保ったといえるだろう。

 しかも、キタサンブラックが1番人気に応えた。この“第1回”があったから、大阪杯はGⅠとして定着し、毎年、盛り上がってきたといえる。

 当時のスポニチを読み返すと、評論家の池江泰郎元調教師が面白いことを語っていた。ブラックタイド産駒(のキタサンブラック)が勝って、2着がディープインパクト産駒(のステファノス)。「今日は兄貴の勝ちだったな、と遠く北海道にいる種牡馬2頭に語りかけたい心境だ」。ブラックタイドとディープインパクトは1歳違いの全兄弟であり、ともに池江泰郎氏が調教師時代に管理した。今、思えば凄いことである。

 そして、この2頭は厩務員も同じ。市川明彦氏だ。筆者は市川氏とは早くから仲良くしていただき、2頭ともデビュー前から厩舎でつぶさに見てきた。

 デビュー前の印象でいえば、ブラックタイドの方が断然、上だった。黒光りした馬体。周囲を威嚇する目。ド迫力のトモ。“馬っぷりがいい”とは、この馬のためにある言葉だと思ったほどだ。

 残念ながら現役時はGⅠを獲ることはできなかったが、あの馬っぷりが伝われば、種牡馬としてそこそこやれるのでは、と思っていた。その点は市川氏も同じ見解だったが、まさかキタサンブラック級の馬を出してくるとは想像を超えていた。

 大阪杯を勝った後、武豊騎手は「キタサンブラックは格好いい」と何度も強調した。「乗るのは有馬記念以来だったが、パドックでまたがった時、少し大きくなっているな、と感じた。そして改めて格好いい馬だな、と思っていました」。この、武豊騎手を魅了する格好の良さ、スケール感こそ、ブラックタイドから引き継いだものだと思う。

 そして、その長所はイクイノックスへと遺伝していったのではないか。バランスの取れた馬体が大跳びでしなやかに躍る。ブラックタイドとキタサンブラックの長所をギュッと凝縮したような凄みがイクイノックスにはあった。

 現役時も、種牡馬としても、日本競馬に大きな影響を与えたキタサンブラック。生まれ変わった大阪杯を勝つにふさわしい馬が勝ったといえる。

鈴木正

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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