今週は新潟で関屋記念。01、02年のこのレースを連覇したマグナーテンを取り上げたい。
当時としては世界最高峰クラスの超良血馬だった。父ダンチヒ(ダンジグ)はノーザンダンサーの子で当時のトップ種牡馬の1頭。母マジックナイトは91年仏G1ヴェルメイユ賞を制し、続く凱旋門賞、ジャパンCでも2着に入った名牝中の名牝だった。

そんな血統表を見ただけでワクワクするような馬が藤沢和雄厩舎にやってくる。駆け出しの競馬記者だった自分は「こういう馬がGⅠを勝つんだろうな。いくつ勝つか楽しみだ。将来は凱旋門賞にも行ってほしいな」などと考えていた。もちろん、競馬はそんな甘いものではないのだが。
マグナーテンのデビューは遅れに遅れた。3歳の7月、福島での既走馬相手の芝の未勝利戦にようやく姿を見せた。血統的魅力もあって1番人気に推されたが6着。その後、距離を延ばしたり、ダートを使ったりと、いろいろ試したが計6戦して白星を得られず。ついに未勝利戦そのものが終わってしまった。
ここで陣営は思い切った策に出た。マグナーテンを去勢したのである。
世界最高クラスの良血馬。購入時に種牡馬としての将来を考えたことは想像に難くない。それを諦めても、マグナーテンが去勢効果によってポテンシャルを出し切る方向を関係者は選んだ。
藤沢和雄元調教師に、マグナーテンの去勢について詳しく話を聞いたことはないが、去勢についての一般論なら多くのことを聞いた。
去勢が効果を発揮する馬とは、気性の荒い馬、気持ちをコントロールできない馬、闘争心を正しく競走へと向けることができない馬である。それらが改善し、競走成績が上がって、現役中、そして引退後の“馬生”がストレスのないものになる可能性が生まれるのであれば、そこは去勢を考えるべきであろう。これが藤沢和雄元調教師の去勢に対する基本的な考えであったと記憶する。
マグナーテンも世界的な良血ではあるが、まずは力を出し切れなければ、本人(本馬?)も幸せではないという考えが関係者にはあったと思われる。
これは余談だが、去勢して大きく体重が減る馬がいる。それはOKか?という質問に、藤沢和雄元調教師は「去勢すると、首回りの筋肉が落ちることが多い。この筋肉は走る際の首の動きを窮屈にするもの。これが落ちることによって走りがスムーズになることがある。体重減は、その余分な筋肉が落ちたということで、マイナス体重を気にかける必要はない」と話していた。今後のパドックの参考になれば。
引退の瀬戸際だったが去勢を施されて美浦へと戻ったマグナーテン。復帰2戦目の盛岡・交流戦で初めて白星をつかんだ。デビューから実に8戦を要していた。
そこからは一進一退ありながらもマグナーテンは着実に白星を増やしていった。芝でも勝利し、4歳秋から5歳春にかけて3連勝。福島で4着に敗れた後、新潟でオープンの朱鷺Sを1着。そして、01年関屋記念に臨むのだ。
3歳未勝利戦をさっぱり勝てなかった馬がついに重賞に駒を進めた。藤沢和雄厩舎に出入りしていた記者たちは「やっぱり先生はすげえなあ」と感嘆したが、マグナーテンの活躍はここからが本番だった。