今週はエリザベス女王杯。次週はマイルチャンピオンシップと京都競馬場でのGⅠが続く。
感心するくらいにうまくできている日程である。紅葉が見頃を迎える時季。同時にマツタケやサンマ、栗などを味わうメニューが増え、京都を訪問する楽しみが膨らむ。メジロドーベルでエリザベス女王杯を連覇(98、99年)した頃、大久保洋吉調教師も「この季節の京都出張は食事も楽しみのひとつだ」と話していた。

筆者は祇園近辺に宿を取り、高台寺を散歩することを楽しみとしていた。豊臣秀吉の正室・北政所ゆかりの名刹。臥龍池には赤く染まった紅葉が映り込み、思わず吸い込まれそうになる。まるで池の奥底に小宇宙があるようだった。当時は観光客もそう多くなく、小一時間、ゆっくりと眺めることができた。インバウンド激増の今はそうはいかないだろうが、皆さんもチャンスがあれば、ぜひ。
エリザベス女王杯といえば、10、11年連覇の英国馬スノーフェアリーである。赤と黄色の勝負服は紅葉を思わせ、京都によく似合った。
直線で見せる切れ味は天下一品だった。特に10年。イン2頭目から圧巻の伸び。一瞬で後続を突き放した。ラスト2Fのレースラップは12秒7-11秒8。桁外れの加速ぶりである。
普段は表情を変えないことで知られる名手ライアン・ムーアが冗舌に語ったことにも驚いた。それだけうれしかったのだろう。「英オークス、アイルランドオークス(ともに1着)より強かった。ギアを上げた瞬間のスピードが桁違いだった。馬に自信があふれていたよ。感動した」
筆者はレース前の数日間、京都競馬場でスノーフェアリーの調整ぶりを見守った。リラックスした様子が印象的だった。エドワード・ダンロップ師はこう語った。「ずっと独りぼっちで調教していたのに寂しがることもなく、最高の状態を維持した。この馬にはいつも驚かされる。凄いハートの持ち主だ」
いくら強い馬がいても、その馬に合う適切な舞台を用意してあげなければ驚くような成績は残せない。その意味では、ダンロップ師は究極のセンスの持ち主だったといえる。
英・愛オークスはともに追加登録料を支払っての出走、そして優勝。当時、約260万円と約470万円だったそうで、オーナーもだいぶしぶっていたという。そこを「勝てますから」と説き伏せて快勝した。
秋も欧州でのビッグレース、米国でのブリーダーズCと選択肢はいろいろあった。そこをエリザベス女王杯に狙いを定め、褒賞金込みで1億8000万円をゲットした。翌年の連覇も含め、この馬に関するレース選択は神がかっていたといえる。
ウィジャボード(05年ジャパンカップ5着、06年同3着)で来日経験があったとはいえ、なかなかオーナーに「極東の国、日本に行きましょう」とは言いにくいはずだ。
レース後、ダンロップ師は「次はジャパンCに向かいたい。ブエナビスタを倒すのは今しかない」と語った。天皇賞馬ブエナビスタ対スノーフェアリー。対戦は実現しなかったが、もし、この世界の名牝2頭がぶつかり合っていたら、何を置いても東京競馬場に駆けつけるべき究極のマッチアップとなっていただろう。






