マイルチャンピオンシップといえば、当欄にぜひ書いておきたい馬がいる。09年優勝馬カンパニーだ。
8歳にして天皇賞・秋を勝ち、返す刀でマイルチャンピオンシップを制してGⅠ連勝。8歳馬による平地競走GI制覇がそもそも史上初なのに、連勝というとてつもない金字塔を打ち立てた。このマイルチャンピオンシップが引退戦。見事な幕引きだった。
カンパニーのレースぶりを振り返る前に、近藤英子(ひでこ)オーナーについて触れておきたい。
夫である近藤利一氏(アドマイヤベガ、アドマイヤムーンなどで知られる大馬主、故人)に誘われ、馬主となった英子氏。初めて持った馬がブリリアントベリー。のちにカンパニーの母となる馬である。
ブリリアントベリーの母はクラフティワイフ。ビッグショウリ(マイラーズカップなど中央7勝)、ビッグテースト(03年中山グランドジャンプ)などを出した名繁殖牝馬だが、このブリリアントベリーが初子。恐らくは小林稔調教師が発掘して英子オーナーに勧めたと思われるが、師の馬を見る目、オーナーの強運には驚かされる。

このブリリアントベリーが3勝を挙げて繁殖入りした後、6番目の子として生まれたのがカンパニー。初めて持った馬の子がGⅠ制覇をやってのけた。まるで小説である。
実はカンパニー、父の存在も小説めいている。父の名はミラクルアドマイヤ。兄に96年ダービー馬フサイチコンコルドを持つ名血だが、現役時は持病も災いして3戦1勝に終わった。
この馬を種牡馬入りさせたのが近藤家のクリーンヒットだった。早速、英子オーナーはミラクルアドマイヤをブリリアントベリーに種付け。生まれたのがカンパニーだった。
近藤利一氏といえば、セレクトセールで大商いをするイメージだが、英子オーナーは、まるでダビスタのような配合でカンパニーをつくり出した。どちらが正解ということはないが、こういうところが競馬の面白さだ。
カンパニーの競走成績も非常に味わい深い。鋭い追い込み脚を武器に、4歳から6歳まで、福永祐一騎手(現調教師)を背に重賞3勝を挙げた。ところが、7歳春の中山記念で横山典弘騎手に乗り替わると、いきなり2番手につける先行策を披露。しっかり抜け出して重賞4勝目を手にした。
さらにマイラーズカップも4番手付近から伸びて連勝。驚きの脚質変更で第2次黄金期を迎えた。
09年天皇賞・秋。前哨戦の毎日王冠を勝って臨んだカンパニーは外から力強く伸びてGⅠ初V。史上初となる8歳馬による平地GI初制覇となった。
そして、引退戦であることを発表して臨んだマイルチャンピオンシップ。GⅠで初めての1番人気に推されたカンパニーは直線でヒカルオオゾラと外国馬エヴァズリクエストの間を割って鋭く伸び、残り50メートルで先頭に立ち、見事に有終の美を飾ったのだった。
英子オーナーはマイルチャンピオンシップを勝った後、「勝って終われるなんて、なかなかない。本当にうれしい」と喜んだ。同時に、ブリリアントベリー購入からスタートした馬主ストーリーの序章が、まず大団円を迎えたことに一抹の寂しさを感じているようでもあった。
筆者も何人かの馬主さんとお付き合いしてきて、1つ勝つことがいかに大変であるか、身に染みている。だから、カンパニーを巡る物語は本当に奇跡的だと思う。競馬を題材としたTVドラマが話題だが、英子オーナーをそのまま描いても素晴らしいドラマができあがるのではないか。






