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 04年桜花賞、06年ヴィクトリアマイルを制した馬ダンスインザムード(牝、父サンデーサイレンス)が19日、けい養先の社台ファーム(北海道千歳市)で息を引き取った。25歳だった。

 JRAからのリリースには社台ファーム事務局のコメントが掲載されていた。目を奪われたのは、この部分だった。

 「引退して牧場に戻ってきたダンスインザムードは、まるで女王様のようで、おいそれとは近寄れない雰囲気のする馬でした。実際よく噛みついてきましたし、人なつこいタイプでもありませんでした」

武豊騎手を背に04年桜花賞を制したダンスインザムード©スポーツニッポン新聞社

 現役当時の姿がありありとよみがえった。きれいに縦に並んだ藤沢和雄厩舎の乗り運動。真っすぐに前を見つつ、周囲を睥睨(へいげい)する雰囲気も漂わせたダンスインザムードは、集団にいてもどこにいるのか、すぐに分かったものだ。

 桜花賞を制したのは武豊騎手の手綱だった。

 ダンスインザムードの中山でのデビュー戦。2着ジョリーダンス(のち重賞2勝)を6馬身ちぎって逃げ切るのを見て、「ああ、クラシックは全部この馬にやられる」と予感したという。乗り心地も凄く良さそうだ、乗ってみたい。しかし、ダンスインザムードは関東馬。チャンスはないだろうと諦めた。

 だが、運命とは面白い。ダンスインザムードが3戦目に選択したフラワーカップ。ケント・デザーモが来日して騎乗するはずだったが来日不可能となり、武豊騎手にお鉢が回ってきた。一も二もなく騎乗を快諾した。フラワーカップは2番手追走から楽に抜け出した。そのスケールの大きさに驚いた。

 「日本一のトレーナーの馬。重圧は当然ある。その中でいい仕事をしたい」。武豊騎手は桜花賞に臨むにあたり、1週前と当該週、2度も美浦を訪れ、追い切りにまたがった。1頭のために武豊騎手が2週連続で美浦入りというのは記憶にない。万全を期し、悔いを残したくない気持ちが伝わってきた。

 その桜花賞。6番手追走から4角で早々と先頭に並びかけた。「本当は動きたくないのに。少々(仕掛けが)早かったな」。武豊騎手に一瞬、不安がよぎったが、馬がすぐにかき消してくれた。四肢がうなりを上げ、後続はあっという間にちぎれた。

 2着アズマサンダースの蛯名正義騎手(現調教師)が目を丸くして言った。「強すぎるよ、全然追いつかない」。武豊騎手はお立ち台で改めてこの馬の強さを語った。「ゴーサインを出したら一瞬で抜け出した。これはもう圧勝といっていい。乗りやすいし現状で欠点はない。将来性は超A級ですよ」

 これがクラシック初勝利となった藤沢和雄調教師。まずは恒例の照れ隠しから始まった。「初クラシックはうれしいんだが、武豊騎手が桜花賞5勝目というんだから、まだまだだよね。あとでこっそりと喜ぶことにします」

 桜花賞前の最終追いは負荷のかかる3頭併せの真ん中。さらに長距離輸送も挟んだが、馬体重はフラワーカップ時から2キロ増えて464キロ。精神的なたくましさに指揮官も驚いた。「まだ若いこの時期に、こんな強い競馬ができるのだから楽しみだよね」(藤沢和師)

 次走はダービー?海外遠征は?と色めき立つ報道陣に吉田照哉・社台ファーム代表は、慌てなさんなとばかりに笑って答えた。「この馬に関しては何でもありだよ」

 ただ、その後のダンスインザムードが高い素質に見合う活躍を見せたかといえば、決してそうではない。GⅠ2着こそあったが、白星は5歳春のヴィクトリアマイルまで待たなければならなかった。

 筆者は冒頭にあった“女王様的プライドの高さ”が苦戦の要因だったように思う。何かにイラ立って発汗し、観衆の声に気持ちを乱してスタンド前発走を嫌がった。競走馬には“鈍感力”が大事だが、ダンスインザムードは敏感すぎた。

 それでも素質が超A級だったことは証明済みだ。子孫からスーパーホースが出ることを願ってやまない。あなたを観察して、走りに驚いて、取材する時間は楽しかった。女王様、お疲れ様でした。

鈴木正 (Tadashi Suzuki)

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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