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2024年12月03日 (水)

2017年 天皇賞(春)©スポーツニッポン新聞社

キタサンブラック
Kitasan Black

牡、2012年3月10日生まれ 
父ブラックタイド
母シュガーハート(父サクラバクシンオー)
馬主/大野商事
調教師/清水久詞
生産牧場/ヤナガワ牧場 
通算成績/20戦12勝

 キタサンブラックのベストレースは2017年、京都競馬場で行われた天皇賞・春だ。

 3歳時に菊花賞、4歳時に天皇賞・春とジャパンカップで優勝。5歳になったこの年にも大阪杯を勝って、キタサンブラックはすでに4つのGⅠを手中に収めていた。天皇賞・春の2連覇を目指し、3番ゲートからスタートしたキタサンブラックは武豊騎手の手綱に導かれ、2番手を進んだ。逃げたヤマカツライデンのペースは緩みなかった。

 スタートしてから1000㍍の通過タイムは58秒3。天皇賞・春はGⅠレースの中でもっとも長い距離3200㍍で争われる。後半にスタミナを温存したいメンバーは、できればスローペースで走りたい。しかしヤマカツライデンのペースは中距離である2000㍍前後のレースでもおかしくないハイペースだった。少し離れていたとはいえ、キタサンブラックはこのペースを2番手で追いかけた。

 オーバーペースで飛ばしすぎたヤマカツライデンが2周目の4コーナーで後退すると、あっという間にキタサンブラックが先頭に躍り出た。ゴールまでの残り320㍍あまり、その位置を守り切り、1着でゴールした。優勝タイムは3分12秒5。これは06年にディープインパクトがマークした3分13秒4を0秒9も更新する新記録となった。

 競馬のタイムで一つの尺度になるのが200㍍ごとのラップだ。キタサンブラックがマークした3分12秒5というタイムは200㍍を平均12秒0で走ったタイムに0秒5をプラスしたものになる。200㍍平均12秒0というラップは2000㍍なら2分ちょうどのペースだ。ある程度の能力がなければ出せないタイムだ。それを3200㍍も持続した。キタサンブラックはレコードタイムの更新によって、けた違いのスピードの持続力を証明した。

 ただキタサンブラックはそれだけで終わらなかった。その半年後、東京競馬場で行われた天皇賞・秋に出走した。良馬場だった春と違い、秋は雨に見舞われた。コースは田んぼのようなどろんこ馬場になった。自慢のスピードが殺されれる状態だ。おまけにスタートに失敗し、レースは後方から進めることになった。だが、あきらめなかった。武豊騎手は距離のロスを少なくするためインコースに進路を取り、少しずつポジションを上げていった。最後はサトノクラウンとの競り合いを制し、クビ差で勝利をもぎ取った。

2017年 天皇賞(秋)©スポーツニッポン新聞社

 勝ちタイムは芝2000㍍で2分8秒3。天皇賞・秋は1984年にそれまでの3200㍍から2000㍍へ距離短縮された。以来、23年まで40回行われたが、その中でもっとも遅い勝ちタイムだった。

 つまりキタサンブラックは3200㍍の天皇賞・春をもっとも速いタイムで勝ち、距離2000㍍の天皇賞・秋をもっとも遅いタイムで勝った馬なのだ。究極のスピードとどろんこ馬場を克服するパワー。二つの相反する条件を克服した。どんな条件でも勝つのが名馬だ、とされる。キタサンブラックは名馬の中の名馬だ。

         ♢

 「凄馬」はとてつもないパフォーマンスを見せた歴史的名馬たちを紹介します。

有吉正徳

1957年、福岡県出身。82年に東京中日スポーツで競馬取材をスタート。92年に朝日新聞に移籍後も中央競馬を中心に競馬を担当する。40年あまりの取材で三冠馬誕生の場面に6度立ち会った。著書に「2133日間のオグリキャップ」「第5コーナー~競馬トリビア集」

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