キタサンブラック
Kitasan Black
牡、2012年3月10日生まれ
父ブラックタイド
母シュガーハート(父サクラバクシンオー)
馬主/大野商事
調教師/清水久詞
生産牧場/ヤナガワ牧場
通算成績/20戦12勝
キタサンブラックのベストレースは2017年、京都競馬場で行われた天皇賞・春だ。
3歳時に菊花賞、4歳時に天皇賞・春とジャパンカップで優勝。5歳になったこの年にも大阪杯を勝って、キタサンブラックはすでに4つのGⅠを手中に収めていた。天皇賞・春の2連覇を目指し、3番ゲートからスタートしたキタサンブラックは武豊騎手の手綱に導かれ、2番手を進んだ。逃げたヤマカツライデンのペースは緩みなかった。
スタートしてから1000㍍の通過タイムは58秒3。天皇賞・春はGⅠレースの中でもっとも長い距離3200㍍で争われる。後半にスタミナを温存したいメンバーは、できればスローペースで走りたい。しかしヤマカツライデンのペースは中距離である2000㍍前後のレースでもおかしくないハイペースだった。少し離れていたとはいえ、キタサンブラックはこのペースを2番手で追いかけた。
オーバーペースで飛ばしすぎたヤマカツライデンが2周目の4コーナーで後退すると、あっという間にキタサンブラックが先頭に躍り出た。ゴールまでの残り320㍍あまり、その位置を守り切り、1着でゴールした。優勝タイムは3分12秒5。これは06年にディープインパクトがマークした3分13秒4を0秒9も更新する新記録となった。
競馬のタイムで一つの尺度になるのが200㍍ごとのラップだ。キタサンブラックがマークした3分12秒5というタイムは200㍍を平均12秒0で走ったタイムに0秒5をプラスしたものになる。200㍍平均12秒0というラップは2000㍍なら2分ちょうどのペースだ。ある程度の能力がなければ出せないタイムだ。それを3200㍍も持続した。キタサンブラックはレコードタイムの更新によって、けた違いのスピードの持続力を証明した。
ただキタサンブラックはそれだけで終わらなかった。その半年後、東京競馬場で行われた天皇賞・秋に出走した。良馬場だった春と違い、秋は雨に見舞われた。コースは田んぼのようなどろんこ馬場になった。自慢のスピードが殺されれる状態だ。おまけにスタートに失敗し、レースは後方から進めることになった。だが、あきらめなかった。武豊騎手は距離のロスを少なくするためインコースに進路を取り、少しずつポジションを上げていった。最後はサトノクラウンとの競り合いを制し、クビ差で勝利をもぎ取った。
勝ちタイムは芝2000㍍で2分8秒3。天皇賞・秋は1984年にそれまでの3200㍍から2000㍍へ距離短縮された。以来、23年まで40回行われたが、その中でもっとも遅い勝ちタイムだった。
つまりキタサンブラックは3200㍍の天皇賞・春をもっとも速いタイムで勝ち、距離2000㍍の天皇賞・秋をもっとも遅いタイムで勝った馬なのだ。究極のスピードとどろんこ馬場を克服するパワー。二つの相反する条件を克服した。どんな条件でも勝つのが名馬だ、とされる。キタサンブラックは名馬の中の名馬だ。
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「凄馬」はとてつもないパフォーマンスを見せた歴史的名馬たちを紹介します。