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2025年11月02日 (日)
天皇賞(秋)

2024年 桜花賞©スポーツニッポン新聞社

 今春のGⅠも残り少なくなった。競馬ウオッチャーとして気付いたことを書き留めておきたい。

 牝馬クラシックは桜花賞をステレンボッシュ、オークスをチェルヴィニアが制した。筆者は桜花賞でチェルヴィニアを本命にし、オークスがステレンボッシュ。センスのなさに呆れるが、それはさておき…。

 勝因は、ともに「鞍上の道中の運びのうまさ」にあったと分析する。桜花賞のステレンボッシュはモレイラ騎手。オークスのチェルヴィニアにはルメール騎手がまたがっていた。

 パトロールビデオを見れば一目瞭然なので、皆さんも今一度、見てほしい。パトロールビデオは今やJRAの公式ウェブでも無料で見ることができる。

 まず桜花賞だ。スタート後、ステレンボッシュのモレイラ騎手は、1番人気のアスコリピチェーノだけに照準を合わせ、同馬の真後ろのポジションをゲットした。

 目標となる馬がいればレースがしやすくなる。皆さんも自分に置き換えてほしい。小中高のマラソン大会。ただ、ダラダラ走るより、前にいる誰かを目標として「あいつについていこう」と考えた方が走りやすくなかったか?馬だって同じ。目標を定めた方が走りやすく、スタミナの消耗を防げる。

 そして3コーナー過ぎから徐々にアスコリピチェーノの内に馬体を入れ「マークしているんだぞ。かなり接近しているんだぞ」という姿勢を鮮明にした。

 グッと圧をかけたところでアスコリピチェーノの北村宏司騎手は左に首を動かし、外に馬がいないかをチェックした。その動きはモレイラ騎手ももちろん見ている。そして確信したはずだ。「アスコリピチェーノは4角で外に行く」「そのタイミングで自分も動けば進路は空く」

 その後の展開は皆さんもご存じの通りだ。4コーナーでステレンボッシュはアスコリピチェーノの内に馬体をねじ込んで前に出て、最後はアスコリピチェーノの追い上げを4分の3馬身、防ぎ切った。モレイラ騎手の的確なレースプランが光った。

 オークスでは逆にステレンボッシュが厳しいマークに遭った。マークしたのはチェルヴィニアのルメール騎手だ。

 桜花賞のモレイラ騎手には「何が何でもアスコリピチェーノの直後」という姿勢が見えたのに対し、オークスのルメール騎手には、スタート直後、そこまでの意識はなかったように見える。しかし、それでもステレンボッシュが誘導されるかのようにチェルヴィニアの前へと位置してしまったのは、ルメール騎手の経験と勘のなせる業なのだろう。

2024年 優駿牝馬(オークス)©スポーツニッポン新聞社

 桜花賞馬の背後でスタミナの消耗を防いだチェルヴィニア。勝利に向けてのルメール騎手の”仕上げ”はとモレイラ騎手とは少し違っていた。

 ルメール騎手は残り1000m付近から、ステレンボッシュのマークより、自分の競馬を優先した。わずかに荒れたインを避け、ギリギリ、馬場のいい部分を通らせた。直線では馬場の五分どころあたり。伸び伸びと走れる場所へと馬を誘導し、残り50mで先頭に立って差し切った。

 レース前に「自分の競馬をするだけ」とコメントをする関係者は多いが、競馬はやはり相手がいるスポーツ。勝つ可能性が高そうなライバルをマークし、その上で自分の競馬を貫ける馬こそが、勝者の歴史に名を刻むことができる。それを改めて感じたGⅠシリーズだった。

鈴木正 (Tadashi Suzuki)

1969年(昭44)生まれ、東京都出身。93年スポニチ入社。96年から中央競馬担当。テイエムオペラオー、ディープインパクトなどの番記者を務める。BSイレブン競馬中継解説者。

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